ビットコイン・インスティテュート

サトシ・ナカモトは​女性だったのか — 名前の​挙がった​候補は​全員​男性、​誰も​確かめなかった​前提

キーボードに向かう、性別の分からない人影。正面には男性の輪郭を描いた同じカードが12枚、壁のように並び、離れたところに何も書かれていないカードが1枚置かれている。暗い色調のイラスト。

このサイトには、サトシは自分について何を語ったのか — 技術のことは語っても、自分のことは語らなかった男という記事がある。32か月の公開記録から、サトシ・ナカモトが自分について書いた文を一つ残らず集めた記事である。通して読んでも、サトシが自分の性別を書いた文は一つもない。性別が出てくるのは、P2P Foundationのプロフィールの欄だけで、「Japan(日本)」と並んで「Male(男性)」とある。このページは、この「日本」も「男性」も、裏付けのない記述として扱う。

それなのに、サトシの本人の発言を集めた記事は、題の最後が「男」になっている。題を付けたのは、この記事を書いている私だ。

サトシ・ナカモト候補者比較には、12人の名前が並んでいる。アダム・バック、ウェイ・ダイ、ハル・フィニー、ニック・サボ、レン・サッサマン、ジェームズ・A・ドナルド、ピーター・トッド、ドリアン・ナカモト、クレイグ・ライト、ポール・ルルー、イーロン・マスク、金子勇。全員が男性だ。この比較は、プロフィールの一致、文体計量、直接のやり取り、開発環境の四つの観点から候補を絞っているが、性別はどの観点にも入っていない。「彼」という呼び方は調べ始める前から決まっていて、候補者比較の表には男性の名前だけが並んだ。このサイトで性別を取り上げているのは、この記事と、読書ガイドのよくある質問の短い答えだけだ。サトシの伝記も、匿名性の構造分析も、性別を論じていない。

名前そのもの

「彼」という呼び方の出どころは、名前にある。「サトシ」は日本では男性の名前として定着していて、2008年にこの筆名を選んだ人は、まず男性と読まれる名前を選んだことになる。サトシを「彼」と呼ぶ習慣は、のちの分析からではなく、この名前から始まった。ホワイトペーパーが出る前から、その呼び方は決まっていた。なぜ日本人の名前だったのかは別の話で、それはなぜ「サトシ・ナカモト」は日本人名だったのかというページが、当時のサイバーパンクの作品に描かれた日本の姿と照らし合わせて考えている。国籍も、性別と同じく、プロフィールの欄のほかに裏付けがないまま前提にされてきた。その前提が本当に正しいのかは、国籍を扱った対のページで確かめている。

匿名性の構造分析は、サトシの正体を何年も隠し続けた六つの層を、互いに独立したものとして記録している。男性の名前だったために、性別を疑ってみる人がはじめから一人もいなかったのなら、それが七つ目の層になる。

候補の集め方

サトシを探す本格的な調査は、どれも、すでに名前の知られていた人の一覧から始まる。サイファーパンクのメーリングリストやmetzdowdの暗号学メーリングリストに投稿していた人、ビットコインの初期のコミット履歴に名前が残る開発者、ホワイトペーパーが引用した先行研究の著者。候補者比較の12人も、こうした一覧か、報道や本人の名乗りで名前が出た人から選んでいる。文体を比べる研究は、どれほど厳密でも、手元にある候補に順位を付けることしかできない。「この男性たちのうち、誰の文章が一番サトシに似ているか」と何度比べても、答えは必ず男性になる。このサイトにある二つのページ、候補者比較となぜサトシは見つからないのかも、手元の候補を比べているだけで、その候補をどう選んだかは確かめていない。

「女性かもしれない」という説

女性だという見方は、2018年に表に出たことがある。5月13日、ニューヨーク選出の米国下院議員キャロリン・マローニーが、ブルックリンで開かれたWomen on the Blockというイベントで、「サトシは女性だ」と言った。報じた記事は、議員の発言が冗談半分だった可能性に触れつつ、暗号資産の世界で女性の貢献が正当に認められていないのではないか、という論点としてこの発言を取り上げている。作品そのもので評価されるため、あるいはそもそも読んでもらうために、男性の名前で作品を発表した女性は、歴史に何人もいる。シャーロット・ブロンテはカラー・ベル、メアリー・アン・エヴァンズはジョージ・エリオットという男性の名前で書き、ソフィー・ジェルマンはガウスとの手紙で「M.ルブラン」と名乗った。

男性の名前の陰に女性がいた例がある以上、サトシにもその可能性はある。ただ、この女性たちは、いずれものちに正体が知られた。サトシには、正体を明かす手紙も、同僚の証言も、本名で署名した原稿もない。候補者比較の12人には、サトシと比べられる記録がある。「女性かもしれない」という見方には、比べる相手になる記録がなく、13人目の候補にはならない。誰も女性の候補を探さなかったので、比べられる記録が、そもそも集められなかったのである。

私自身の盲点

本人発言集の記事で、私はプロフィールの「日本」を、裏付けのない記述として扱った。同じ記事の題に「男」と書いたときは、すぐ隣の「男性」の欄を疑いもしなかった。

今では、サトシを「彼」と呼ぶ文を読むたびに、事実の顔をした推測に聞こえる。サトシは、男性の名前を一つ選び、プロフィールの欄を一つ埋めただけだった。それだけで、記者も、文体計量の研究者も、このサイトの記事も、私も、そろって2008年からずっと「彼」と書き続けてきた。私がサトシなら、これを見て笑う。名前を一つ選び、欄を一つ埋めるだけで、性別を詮索されずに済んだのだから。

参照元の外部ソース

https://en.wikipedia.org/wiki/Satoshi_Nakamoto

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