ビットコイン・インスティテュート

アナトリー・ヤコベンコ

ビットコインを「傑作」と呼び、「価値はない」とも言ったソラナの創設者

人物

暗い背景の図解。時計の文字盤から線が伸び、白と青緑の四角が交互に並ぶ列につながっている。ほかに、右上がりの棒グラフを収めた枠、列の下の丸みのある札が二つ、丸で囲んだチェック印、最下部に並ぶ三つの説明の枠がある

アナトリー・ヤコベンコは、Qualcommで十年以上、無線通信のシステムの技術者として働いた。その後MesosphereとDropboxで分散システムを扱った。2017年、彼はProof of Historyと名付けた着想の草案を書き始めた。ソラナはそこから育ち、2020年代半ばには時価総額で最大級のチェーンの一つになる。

ビットコインについての彼の発言は、ほかに例を見ない。ほめるときも切り捨てるときも、これ以上ないほど極端な言い方をしている。しかもその二つの発言は、数か月しか離れていない。

2017Proof of History の草案を書き始める2020未開示だった11,365,067 SOLの貸付を公表2022集団訴訟が 本人を被告に含める2023SEC が SOL を未登録証券として名指し(6月)2024本人への請求は自発的に取り下げ (9月)2025「BTCに価値はない…保険だ」(3月2日)「優雅さと単純さの点で傑作」 (9月18日)2026「本物のトークンは存在する」 (7月7日)

ソラナが直そうとしたもの

ソラナの技術文書は、解こうとした問題をはっきり書いている。ブロックチェーンには、皆が共有し、確かめられる時間というものがない。だから参加者は、メッセージの順序を自分で確かめられない。

アナトリー・ヤコベンコ(ソラナのホワイトペーパー)

いま公開されているブロックチェーンは、時間を当てにしていないか、参加者が時刻を正しく保てるかについて、ゆるい前提しか置いていない。[中略] 信頼できる時刻の出どころがないので、メッセージを受け入れるか退けるかをその時刻印で決めても、ネットワークのほかの参加者全員がまったく同じ選択をする保証はない。

Proof of Historyはその答えにあたる。時間が過ぎたことそのものを、暗号で台帳に刻み込む。そうすれば、検証者は、順序について合意するためにメッセージをやり取りしなくて済む。

この設計で得られるとされるのは処理量で、文書は、どこまでの量を目指すかをはっきり書いている。

アナトリー・ヤコベンコ(ソラナのホワイトペーパー)

本プロトコルは毎秒1ギガビットのネットワークで分析しており、本稿は、今の機材で毎秒71万件までのトランザクションを処理できることを示す。

ビットコインがプルーフ・オブ・ワークの設備投資によって攻撃を高くつくものにするのに対し、ソラナは没収されうるステークを使う。技術文書はその対応関係を直接書いている。

アナトリー・ヤコベンコ(ソラナのホワイトペーパー)

預託はプルーフ・オブ・ワークにおける設備投資に相当する。マイナーは機材と電力を買い、それをプルーフ・オブ・ワークのブロックチェーンの分岐の一つだけに注ぎ込む。預託とは、検証者が取引を検証している間、担保として差し出すコインである。

同じ文書は、自分が受け入れた代償も名指ししている。ここがこの文書の誠実な部分だ。

アナトリー・ヤコベンコ(ソラナのホワイトペーパー)

ネットワークの分断を扱うCAP定理の枠組みでは、一貫性か可用性のどちらかを選ばねばならない。我々の手法は最終的に可用性を選ぶ。ただし、時間を客観的に測れるので、人が待てる程度のタイムアウトを置けば、一貫性も選べる。

設計の軸は三つあり、技術文書はどの軸についても、ビットコインのどの立場から離れるのかをはっきり書いている。

設計の軸ビットコインソラナ
順序の決め方共有された検証可能な時間の概念を持たないProof of History — 台帳そのものに書き込まれた暗号的な時計
攻撃を割に合わなくするもの設備投資。機材と電力を一つの枝に投じる没収されうるステーク。検証している間、担保として預ける通貨
ネットワークが分断されたとき分岐せずに停滞する生成を続け、人が待てる程度のタイムアウトのうちに整合を取り戻す

表の2行目の、機材と預託の違いは、プルーフ・オブ・ワークとプルーフ・オブ・ステークの比較で、ドルとナカモト係数を使って測ってある。ヤコベンコの「傑作」という発言も、その比較のページに、数字と並べて載せてある。

最後の行の、分断されたときにビットコインが止まるという点は、欠点ではなく、ビットコインの性質である。デジタルゴールドの構造的特徴で詳しく扱う。

「傑作だ」

ビットコインについて聞かれ、ためらわずに答えている。

アナトリー・ヤコベンコ(All-Inのポッドキャスト、2025年9月)

この20年で書かれたもっとも格好いいソフトウェアは、私に言わせればビットコインの、あのナカモト実装だ。

プルーフ・オブ・ワークそのものと、それが持ちこたえてきた理由について語っている。

アナトリー・ヤコベンコ(All-Inのポッドキャスト、2025年9月)

ああ、優雅さと単純さで言えば傑作だよ。[中略] これまで破られていないのは、とても単純だからだ。

中身のある主張は最後の一節で、しかもそれは彼自身のソラナに不利に働く。ソラナの処理量は複雑さから来ている。彼自身、同じ対話の中で、極限の性能という目標は「ただただ難しい」と認めている。単純であることが安全につながるという性質は、高い性能を目指すチェーンが、どうしても持てないものだ。

彼はまた、ビットコインが周囲の組織の崩壊を生き延びる性質も認めている。

アナトリー・ヤコベンコ(All-Inのポッドキャスト、2025年9月)

ビットコインは、こうした組織が潰れても耐えられる。[中略] そうした組織が潰れて入れ替わっても、人々が価値を置くビットコインの性質は、すべて残る。

そしてビットコインの役割については、争う余地のない、決まったものとして語っている。

アナトリー・ヤコベンコ(All-Inのポッドキャスト、2025年9月)

ビットコインは、きわめて単純な決済層として設計されている。

「価値はない」

その半年前の投稿は、上の発言と両立させるのが難しい評価だった。

アナトリー・ヤコベンコ(ツイート、2025年3月)

BTCに価値はない。もっとも好意的に見て、保険だ。[中略] 投資ではなく費用であり、機能する保証もない。[中略] もしうまくいくとしても、その理由は、15年前に起きた最初の革新を除けば、技術にはほとんどない。

二つの考えを同時に持つことはできる。ソフトウェアとしては傑作で、そこから発行される資産は、見方によっては、テールリスクに備えて払う保険料だ、というのは両立しうる。彼が実際に両方を同時に考えているのかは、記録からは分からない。言えるのは、二つの発言が別のものに向いているということだ。前者は仕組みについての、後者は資産として持つことについての評価である。その区別こそデジタルゴールドの分析が扱っている軸である。

彼は同じ立場を言い直した。今度は「基盤があるのはビットコインだけだ」という主張に対してである。

アナトリー・ヤコベンコ(ツイート、2026年7月)

悪い株式や債務とは違う、本物のトークンは存在する。ネットワーク上の権利に強制力がないのは、あなたのソフトウェアを動かす義務を誰も負っていないからだ。

この主張はビットコインにも及ぶ。どのトークンも、強制できる請求権を持たない、というのが彼の論である。

供給の開示

ソラナが初期のトークンの供給について自ら公表した内容は、記録に残っている。そして、供給を開示したかどうかが問われる場面は、ビットコインの立ち上げにはそもそもない。

(Solana Labsのブログ記事)

問題は、我々がこの情報を、貸付の規模と性質も含めて、CoinListの入札とその後のBinance上場の際に公表していなかったことだ。

貸付は11,365,067 SOL、財団からマーケットメイカー(値付けを担う業者)への貸し出しだった。ソラナは全量を流通量から除いたと述べており、別の公表では、そのうち3,365,067枚が実際に業者から財団管理のウォレットへ返還されたと書いている。どちらの数字もソラナ自身の文章に出てくる。一つの数字にまとめず、両方を並べて見るべきである。自分たちのチェーンの通貨の方針がまだ一度も試されていない段階で、創設者たちは供給の一部を手にしていた。こうした構図はソラナに限らない。同じパターンは十二チェーンの設計比較にも見られる。

SECは2023年6月の提訴で、未登録証券にあたると主張する資産にSOLを挙げた。財団はこれを否定した。SECはその後、Binanceの訴訟からSOLを外すよう申し立て、Coinbaseの訴訟は2025年2月に取り下げられた。

2022年には、ヤコベンコ個人も被告に含めた集団訴訟が起きた。裁判所の命令によれば、2024年に原告が、彼についての訴えを、のちに訴え直せる形で自ら取り下げている。ほかの被告への訴訟は続いた。

こうしたことは、どれもビットコインでは起きていない。理由は評判ではなく構造にある。事前の配分も、財団も、発行する主体もないチェーンには、開示すべきことがそもそもないので、開示を怠ることもありえない。発行の面から見た同じ違いは、固定供給と自動調整の比較で扱っている。

ビットコインの歴史での意味

ビットコインの資産としての値打ちを疑う人の中で、技術者として最も確かな経歴を持つのがヤコベンコである。その彼が、技術としては、誰よりもためらいなくビットコインをたたえている。

量子計算の論点では、ビットコインを変えるべきだと公に主張してもいる。2025年の同じ対話で、彼はビットコインが耐量子の署名方式へ移行すべきだと述べ、五年以内に突破が起きる確率をほぼ五分と見積もっている。この見積もりは、量子の脅威を扱った分析が示すとおり、信頼できる専門家の見方が大きく分かれる範囲の中にある。同じ論点について、アダム・バックの20〜40年という時間軸は、この見積もりと正反対の端にある。

ソラナは、フォークと隣接通貨の系譜でたどる技術の系統の外にある。Proof of Historyはビットコインのコードから派生していない。

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