ビットコイン・インスティテュート

リカルド・スパーニ

モネロの主任メンテナーが語る、ビットコインの追跡されやすさと二つの増発バグ

人物

暗い背景の図。左に罫線の入った枠、右に重なり合う輪を収めた枠がある。左端から下がってきた線は、やがて細く平らに伸びていく。一番下に、三つの説明の枠が並ぶ

モネロは2014年4月、BitMoneroとして公開された。分岐元はBytecoin、CryptoNote方式の実装である。当時の暗号通貨の界隈では、Bytecoinのコインの大半は、外の誰もBytecoinの存在を知らないうちに、すでに掘られていた、と見られていた。ネットではfluffyponyと名乗るリカルド・スパーニは、このプロジェクトで最も表に出るメンテナーとなり、十年近くその役を務めた。

ビットコインの取引が透明なのは、欠陥でも長所でもなく、ただの事実である。そしてその事実が、ビットコイン自身には応えられない求めを生んだ。この立場を、誰よりもはっきり語ってきたのが彼である。

2014BitMoneroとして公開、 Bytecoinから分岐 (4月)2018「モネロには大きく明白な用途がある」(10月8日)2020ビットコインの 2010年と 2018 年の増発バグに言及(12月30日)2021南アフリカの令状でナッシュビルで逮捕(7月20日)2022引き渡し、審理は未決のまま

設計の面から、ビットコインの台帳を批判する

モネロが実装したCryptoNoteの技術文書は、ビットコインをどんな基準で評価するのかを、はっきり書いている。電子現金が満たすべき条件を二つ挙げ、ビットコインはその片方を満たさないと言い切るのである。

(モネロ公式サイトの注釈つきCryptoNoteホワイトペーパー)

追跡不能性 — 受け取ったどの取引を見ても、送り手としてありうる者が、どれも同じくらい確からしく見えること。連結不能性 — 送り出したどの二つの取引を見ても、それが同じ相手に宛てたものだと証明できないこと。……残念ながら、ビットコインは追跡不能性の条件を満たさない。

二つ目の異議は採掘についてである。サトシ自身の「1 CPUにつき1票」という言葉を引いて、ビットコインはその原則を守れていないと言う。

(モネロ公式サイトの注釈つきCryptoNoteホワイトペーパー)

したがってビットコインでは、参加者が合意で持つ票の重みに、大きな差がつきやすい。GPUや専用機を持つ者は、CPUしか持たない者よりはるかに重い票を持ち、「1 CPUにつき1票」の原則が破られるからである。

三つ目の異議は、報酬の半減についてである。報酬が決まった時期に一気に半分になることは、通貨の量の問題ではなく、安全の問題だと主張する。

(モネロ公式サイトの注釈つきCryptoNoteホワイトペーパー)

もともとは、指数的になめらかに減っていく発行を目指していたはずだが、実際の発行は、いくつかの直線をつないだ形になっており、そのつなぎ目が、ビットコインの仕組みに支障をきたすおそれがある。

モネロの答えは、なめらかな発行曲線と、その後に続く恒久的な末尾発行だった。1ブロックごとに0.6 XMRをいつまでも出し続けるので、ブロックを作る報酬が手数料だけになることはない。ビットコインの答えは逆で、新しく発行される報酬はゼロに近づき、そのあとは手数料が報酬の役を引き継ぐ。どちらが正しいかはまだ決まっておらず、発行量を固定する通貨と、調整できる通貨の比較で扱っている。モネロは、この問題に迫られる前に、ビットコインとは逆の答えを選び、2022年5月から末尾発行を続けている。12のチェーンの設計を比べた分析によれば、公正に発行を始めたこと、そして全体を取り仕切る組織がないことでは、モネロは、比べたどのチェーンよりもビットコインに近い。二つの設計がはっきり分かれるのは、供給の面である。

彼がビットコインについて語ったこと

スパーニは、ビットコインが失敗したとは考えていない。ビットコインが透明であることから、いろいろなことが起きる。モネロもその一つだ、というのが彼の考えである。

リカルド・スパーニ(What Bitcoin Didのインタビュー、2018年10月8日)

ビットコインが匿名ではないと分かった以上、モネロには、はっきりした大きな使い道がある。

では、ビットコインが後から匿名性を手に入れることはできるのか。ビットコインに匿名性を足そうとする提案は、どれもこの課題を避けて通れない。彼はこれに悲観的な見方を示しつつ、同じ取材の中で、逆の見込みも認めている。

リカルド・スパーニ(What Bitcoin Didのインタビュー、2018年10月8日)

ビットコインに強い匿名性を足すのが楽な道だとは思っていない。とても、とても難しいだろう。

同時に、ビットコインの歴史は今、転機を迎えつつあるとも思う。チェーンの上のビットコインが、本当の匿名性を手にする見込みが出てきた。

その試みで最もよく知られる2つの提案は、CoinJoinとConfidential Transactionsで、どちらもグレゴリー・マクスウェルが設計した。どちらの提案も、スパーニが挙げた、チェーンの上の匿名性という難題に、行く手をはばまれている。Confidential Transactionsは、ビットコインの基盤層には取り込まれなかった。CoinJoinは合意のルールを変えずに済むが、一部のウォレットが使いたい人に向けて用意するだけの方法にとどまった。

そしてビットコインの持続性については、こう述べている。

リカルド・スパーニ(Coin Storyのインタビュー、2020年12月30日)

ビットコインがなくなるとは思わない。最初の10年がそれを証明した。社会や規制の面からも、暗号や技術の面からも、あらゆる攻撃を受けて、それに耐えてきた、きわめて堅牢なプロトコルだ。だから10年後にもまだあるだろう。

「二つの増発バグ」という主張を、記録で確かめる

彼がビットコインについて述べた技術の主張の中で、最も中身があるのは、供給を監査できるかどうかの話である。モネロの匿名性には、避けられない代償がある。金額が隠れていると、何もないところからコインが作られていないかを確かめにくいのである。これに対するスパーニの答えは、取引が透明でも、人が思っているほど確かな保証にはならない、というものだ。

リカルド・スパーニ(Coin Storyのインタビュー、2020年12月30日)

結局のところ、ビットコインにも、供給を監査しきれなくなる危険はある。それは、ビットコインに、コインを不正に増やせるバグがはっきり二件あったことから分かる。一件目は2010年に実際に悪用され、誰かが何十億ものビットコインを作り出した……二件目はもう少し厄介で、2018年のCVEだ。取引の出力を二重に使えてしまうものだった。

二つの出来事は、どちらもこのサイトに収めてある。記録と照らすと、主張の前半は正しく、後半は割り引いて読む必要がある。

2010年 — バリュー・オーバーフロー事件2018年 — CVE-2018-17144
不具合出力の合計を確かめる処理での、整数のあふれ同じ入力が二度使われていないかを確かめる処理の欠落
生成された枚数一件の取引でおよそ1,844億BTCなし
本番のチェーン上での悪用ありなし
どう収まったか修正とチェーンの巻き戻しで、約15時間関係者が示し合わせて公表(誰かに使われる前)

二つの事件を並べて分析したページが、この二件を組にして扱うのは、片方は悪用され、もう片方は悪用されなかったからである。2018年の不具合を「もう少し厄介」と呼ぶのは、不具合の種類の話としてなら言えるが、起きたことの大きさの話ではない。2018年には、コインは一枚も作られていない。

つまり彼の議論は、控えめに言うなら成り立つが、言い切ってしまうと成り立たない。供給が透明なら、原理としては監査できる。2010年には、事が起きたあとで、遅れて監査された。透明だからといって、バグがないことの保証にはならない。ただし記録を見ると、二件のバグを見つけられたのも、透明だったからである。そして二件目は、誰かに使われる前に見つかっている。

Bytecoinの事前採掘について、本人の言葉

モネロが生まれたのは、分岐元のチェーンのコインの配り方が不正だったと、創設者たちが判断したからである。主任メンテナーの説明は、遠慮がない。

リカルド・スパーニ(Blockonomiの記事)

実のところ、コインの82% は、通貨が「公開」される前にすでに掘られていた。事前の採掘に悪意がなかったとしても、コインの82% が、どこの誰とも分からない者たちの手にあることに変わりはない。

モネロ自身は、事前の採掘も、創設者への割り当てもなしに始まった。モネロの仕組みの中で、ビットコインと完全に同じなのは、この点だけである。そしてこれは、ビットコインから分かれた通貨の系譜に並ぶチェーンの多くが、持っていない点でもある。

訴追について

2021年7月、スパーニは南アフリカの令状によりナッシュビルで逮捕され、2022年に引き渡された。問われているのは、モネロより前に勤めていた会社に、2009年から2011年にかけて偽の請求書を出した疑いで、裁判はケープタウンで行われる。プロジェクトの資金の話ではなく、モネロより前の、本人の行いが問われている。報道の時点では決着しておらず、本人は検察の言い分を争っている。上で見た技術の記録とは、何のかかわりもない。ただ、同じ人の経歴として、ここに書いておく。

ビットコインの歴史での意味

モネロは、ビットコインから分かれた通貨の系譜には入らない。CryptoNoteのリング署名は、ビットコインのコードとは別に作られたものだからである。それでもスパーニの記録は、ビットコインの歴史に入る。しかも、ほかの多くの人よりはっきりした理由がある。彼の主張の中心はビットコインについての主張で、ビットコイン自身の記録で確かめることができ、確かめると、半分は正しかった。ほめるだけの言葉や、切り捨てるだけの言葉より、残しておく値打ちがある。

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