ドージ​コイン:白書なし、​上限なし、​10 年​生き​残った​通貨設計

丸みを帯びた無限大記号が緩やかに右肩下がりの曲線へ変わり、隣で二つの歯車が噛み合い、白紙の書類アイコンに斜線が引かれ、最下部に三つの説明枠が並ぶ、濃紺基調のインフォグラフィック。

ドージコインの GitHub リポジトリに置かれた README.md は、この通貨の設計思想を一行で片づけている。

Bitcoin Core および他の暗号通貨から改変したもの

これが、ドージコインの持つもっとも公式に近い設計文書だ。ホワイトペーパーは存在しない。ビットコインをフォークしたライトコインを、さらにフォークして 2013 年 12 月 6 日に生まれたドージコイン (DOGE)は、系譜としてはビットコインの孫にあたる。だが、ビットコインを基準にこの通貨を測ったときに開くのは、技術の差ではない。通貨とは何のためにあるのかという一点だ。

ホワイトペーパーのない通貨

ジャクソン・パーマーがマーケティングの仕事の合間に dogecoin.com を冗談として取得したのが 2013 年。ソフトウェアエンジニアだったビリー・マーカスがその冗談を見つけ、ライトコインのコードをそのまま流用して動くチェーンに仕立てた。設計上の主張も、ビットコインへの異議も、ここには存在しない。ある通貨がまず主張を書き、次にコードを書くのだとすれば、ドージコインはその手順を両方とも飛ばし、ミームから先に動くチェーンを持った。

ドージコインの供給設計 — 無期限発行の仕組み

最初の 145,000 ブロックでは、報酬の額そのものが賭けだった。メルセンヌ・ツイスタ乱数生成器で 0 から 1,000,000 DOGE までの範囲からブロックごとに報酬を決める仕組みで、開発陣自身がこれを遊び心の演出だと説明している。2014 年 2 月、この 145,000 番目のブロックを境に、大手マイニングプールが高額ブロックだけを狙い撃ちするのを防ぐため、報酬は固定された半減方式へ切り替わった。250,000 DOGE から始まり 10 万ブロックごとに半減を重ね、2015 年に到達した 600,000 番目のブロック以降は、1 ブロックあたり 10,000 DOGE で恒久的に固定されている。この先、半減は二度と来ない。

ブロック範囲報酬時期
1 〜 144,9990 〜 1,000,000 DOGE (乱数)2013 年 12 月 〜 2014 年 2 月
145,000 〜 599,999250,000 DOGE から 10 万ブロックごとに半減2014 年 2 月 〜 2015 年
600,000 〜 現在10,000 DOGE で恒久固定2015 年 〜

1 分間隔のブロック時間で 1 年に生成されるブロックは約 525,600。10,000 DOGE を掛けると、毎年 52.56 億 DOGE が生まれ続ける計算になる。この数字は今後も変わらない。ビットコインが供給の上限を 2,100 万枚に固定したのに対し、ドージコインは年間の発行量を 52.56 億枚に固定した。同じ「固定」という語を使っても、ビットコインは天井の高さを、ドージコインは床の高さを固定している。発行される絶対数が変わらない以上、母数が膨らむにつれて新規発行が全体に占める割合は年々下がっていく。12 チェーンの比較が指摘するとおり、この割合そのものを一定に保つ仕組みはどこにもない。

ドージコインを支えるマイニングも、単独では成立していない。2014 年当時、ドージコインの Scrypt ハッシュレートは薄く、51% 攻撃への耐性が乏しかった。ライトコインの創設者チャーリー・リーが同年 4 月にマージマイニング (AuxPoW) の採用を持ちかけ、開発陣が 8 月にこれを発表、9 月のハードフォークで稼働した。仕組みは単純だ。ライトコインのマイナーは、採掘中のライトコインブロックのコインベーストランザクションに、ドージコインのブロックヘッダーへの参照を埋め込む。その一つの Scrypt 計算がライトコインの難易度を満たしていれば通常どおりライトコインのブロック報酬を得るが、同じ計算がドージコインのより低い難易度の閾値も同時に満たしていれば、その証明はドージコインのブロックとしても有効になる。追加のハッシュパワーを一切使わずに、ライトコインのマイナーは両方の報酬を手にする。結果として、ドージコインの安全性はライトコインのマイニングプールがどう動くかに委ねられている。独自に集めたマイナー集団の上に立っているのではない。

統治と分配 — 変えられるのは誰か

供給の出発点に関しては、ドージコインはビットコインと同じ答えを選んだ。プレマイン (発売前の内部配分) は存在せず、乱数報酬の時代も含めて、誰もが同じ確率でマイニングに参加した。会社もなく、最高経営責任者もいない。パーマーは 2015 年にコミュニティを離れ、投機文化の有害さを理由に挙げた。マーカスも開発の一線から退き、後に @BillyM2k の名で X 上の論評者として戻ってきている。開発を担ってきたのは、この二人が去った後も残った、小規模で非公式な貢献者集団だった。

2021 年 8 月、非営利法人としてドージコイン財団が再始動した。既存の開発者を置き換えるためではなく、資金を出し人を雇うための組織だと財団自身が説明している。顧問に名を連ねたのは、イーサリアムのヴィタリック・ブテリンイーロン・マスクの代理人ジャレッド・バーチャル、ドージコインの中核開発者マックス・ケラー、そしてビリー・マーカス本人 (「コミュニティとミーム」担当) だった。プロトコルの権限を握る一つの組織ではなく、資金調達と広報を担う顧問団という形は、ビットコインの「人・組織の脱中央集権」と表面上は似た構造に見える。ただし顔ぶれの知名度は桁違いだ。ライバルチェーンの創設者と、世界有数の富豪の代理人が、この通貨の顧問席に座っている。合意形成の仕組みそのものは今もマージマイニングによるプルーフ・オブ・ワークのままで、財団の発足後もそこは変わっていない。

パーマーが語ったビットコイン

パーマー自身の言葉は、この設計を裏書きしている。公開から一年後の取材で、彼は最初の投稿が何だったのかをそのまま説明した。

当時のビットコインとアルトコインの界隈への当てこすりだ。

そして、自分がしなかった主張を、その言い回しを名指ししながら述べている。

ビットコインとその界隈が預言したがるような「法定通貨殺し」として、私はドージコインを売り込んだことが一度もない。

自分のチェーンが上位二十位に入っていた 2014 年の時点で、共同創設者がアルトコインの定型の売り文句を記録に残る形で辞退している。ドージコインが何のためのものかについても、彼は明快だった。

ドージコインは本当に楽しくて馬鹿げた集まりで、人がインターネット上で小銭を投げ合うのに使う通貨だ。……ドージコインが金融の世界の土台を揺るがす日が来るか。来ない。そもそもそんな意図はなかった。

2018 年になると、批判はビットコインの文化そのものへ向かう。

ビットコインは少し宗教のようになった。少し信者集団めいている。技術に対する接し方として良くないと思う。

2021 年 7 月の連続投稿では、対象がビットコインの設計の核そのものにまで及んだ。

何年も研究した末に、私は暗号通貨が本質的に右派的で超資本主義的な技術であり、租税回避・規制監督の縮小・人為的に強制された希少性の組み合わせを通じて、主として推進者たちの富を増幅するために作られたものだと考えている。

「人為的に強制された希少性」が指すのは、2,100 万枚の上限そのものだ。パーマーは、ドージコインの上限のなさを弁護する形でこの一文を書いたのではない。それでも並べれば構図は一つになる — 供給に天井を持たない通貨を作った当人が、供給に天井を持つ通貨のほうを、価値の保存ではなく富の集中の道具だと名指しした。

ドージコインの固定発行を、ビットコインおよび他 10 通貨と同じ指数チャートで並べる。

ビットコインにとっての意味

ビットコインの「デジタルゴールド」という立場は、単一の性質ではなく、フェアローンチ・創業者不在・固定供給・システムの脱中央集権など六つの構造的特徴を同時に満たすことの上に成り立つ。ドージコインはそのうちのいくつかと一致する。プレマインはなく、企業も CEO も存在しない。だが供給の上限という一点で、ドージコインは正反対の答えを選んでいる。上限を置かないことは失敗ではない — パーマーとマーカスにとって、それは通貨が保有ではなく支払いに使われ続けるための、意図された設計だった。

ドージコインが証明したのは、通貨の設計そのものよりも別のことだ。ホワイトペーパーも、供給上限も、独自のマイニング集団も持たない通貨が、コミュニティとブランドだけで 10 年以上にわたり時価総額上位に居座り続けられる、という事実である。ビットコインの価値の根拠を六つの構造的特徴の組み合わせに求める読み方に対して、ドージコインは対照実験を提供している — 構造的特徴をほとんど欠いたまま、それでも生き残ったチェーンとして。そしてその生みの親自身が、供給という設計変数と価格のあいだに関係はないと繰り返し公言してきた、この記録の中で唯一の創業者でもある。ビットコインが自らの希少性に価値の根拠を置くのだとしたら、ドージコインはその根拠そのものを、生みの親の口から否定されている通貨だ。