ビットコイン・インスティテュート

ドージ​コイン:ホワイトペーパーも​上限もなく、​10年を​生き延びた​通貨設計

濃紺のインフォグラフィック。丸みのある無限大の記号が、ゆるやかに右へ下がる線に変わっていく。隣では二つの歯車がかみ合い、白紙の書類のアイコンには斜線が引かれている。最下段に説明の枠が三つ並ぶ。

ドージコインの設計が誰の考えを借りたものかは、GitHubのリポジトリにあるREADME.mdの一文で済まされている。

(ドージコインのリポジトリのREADME)

Bitcoin Coreやほかの暗号通貨をもとに作り替えたもの

ドージコインが設計の理由として出した文書は、この一行がせいぜいである。ホワイトペーパーはない。2013年12月6日に生まれたドージコイン (DOGE)は、ラッキーコインというコインをもとにしている。ラッキーコインはライトコインからのフォークで、ライトコインはその2年前にビットコインからフォークした。系譜をたどれば、ドージコインはビットコインのひ孫にあたる。だが、ビットコインと比べて見えてくる違いは、技術の違いではない。通貨は何のためにあるのか、という点の違いである。

2013ラッキーコイン経由でライトコインのコードから 誕生(12月6日)2014ブロック 145,000 でランダム報酬が終了(3月17日)2014ライトコインとのマージマイニングが稼働(9月)2015ブロック 600,000 で半減が停止、以後永久に10,000 DOGE 固定2015パーマーとマーカスがそろって一線を退く2021ドージコイン財団が再始動、ブテリンがアドバイザーに (8月)

ホワイトペーパーのない通貨

2013年、ジャクソン・パーマーは、新しいコインが数週間おきに出てくるのを眺めていた。そして冗談でdogecoin.comを取得した。この流れに加わるためではなく、流れを茶化すためだった。ソフトウェアエンジニアだったビリー・マーカスがその冗談に目を留め、パーマーに連絡して、実際に動くチェーンを作った。新しい合意の規則を書いたわけではない。ライトコインのコードをそのまま使い、ジェネシスブロックだけを差し替えて動かしたのである。そう決める前にも、そのあとにも、設計文書は書かれていない。ライトコインは、プルーフ・オブ・ワークの関数を替える理由と、三つの設定値を4倍、または4分の1にする理由を説明した。イーサリアムのホワイトペーパーは、供給の上限をはっきり退けた。ドージコインは、何についても理由を述べなかった。コードが先にでき、今もコードしかない。それを説明する文書は、まだ書かれていない。

ドージコインの供給設計 — 無期限発行の仕組み

最初の145,000ブロックでは、報酬の額が決まっていなかった。ブロックごとに乱数で決めていたのである。ブロック1から99,999までは、メルセンヌ・ツイスタという乱数の生成器で、0から1,000,000 DOGEのあいだの額を引いた。報酬は文字どおりサイコロの目で決まり、作りそのものが冗談のようだった。ブロック100,000からは、この幅の上限が半分になり、0から500,000 DOGEになった。

2014年3月17日に採掘された145,000番目のブロックで、サイコロはやめになった。大手のマイニングプールが、報酬の高いブロックだけを選んで掘り、仕組みの隙を突いていたからである。報酬は250,000 DOGEに固定され、そこから10万ブロックごとに半分に減っていく方式に変わった。半減は、2015年の600,000番目のブロックで打ち止めになった。それ以降、報酬は1ブロックあたり10,000 DOGEのまま変わらず、この先も半減はない。600,000番目のブロックが掘られたのは2015年2月25日で、公開から1年2か月ほどたっていた。このとき、コインはおよそ1,000億枚あった。それからはブロックごとに10,000枚ずつ増えていき、規則のどこにも終わりは書かれていない。

ブロック範囲報酬時期
1 〜 99,9990 〜 1,000,000 DOGE (乱数)2013年12月 〜 2014年初頭
100,000 〜 144,9990 〜 500,000 DOGE (乱数、上限を半減)2014年初頭
145,000 〜 599,999250,000 DOGEから10万ブロックごとに半減2014年3月 〜 2015年
600,000 〜 現在10,000 DOGEで恒久固定2015年 〜

ブロックは1分に1つなので、1年でおよそ525,600ブロックになる。これに10,000 DOGEを掛けると、毎年52.56億DOGEが新しく生まれる。この数字は、この先もずっと変わらない。ビットコインは、供給の上限を2,100万枚と決めた。ドージコインが決めたのは、毎年増える量で、それが52.56億枚である。同じ「固定」でも、ビットコインは総量の上限を決め、ドージコインは毎年必ず増える量を決めた。増える枚数は毎年同じでも、全体の枚数のほうは増え続けるので、新しく発行される分が全体に占める割合は年々下がっていく。その先どうなるかは、12チェーンの比較に書いてある。薄まる速さそのものを一定にしたければ、枚数ではなく割合を目標にする規則が必要になる。12のチェーンのうち、そうした規則を持っていたのは一つだけで、そのチェーンも今はもう持っていない。

マージマイニング — ライトコインのハッシュレートを借りる

ドージコインの採掘は、自分の力だけでは安全を保てていない。2014年の初めごろ、ドージコインを専門に掘るScryptのハッシュレートは少なく、51% 攻撃は机上の話ではなく、現実の危険になっていた。そこで同年4月、ライトコインの創設者チャーリー・リーがマージマイニング (AuxPoW) を提案した。ライトコインの採掘の作業を、ドージコインの作業としても認めようというものだ。ドージコインの開発陣は8月にこの計画を発表し、9月のハードフォークで動き出した。

仕組みは簡単に説明できるが、その効き目は見落とされやすい。ライトコインのマイナーは、ブロックを組むときに、もともとコインベーストランザクションを作り、Scryptでハッシュを計算して、ライトコインの難易度の目標を下回る値を探している。マージマイニングでは、そのコインベーストランザクションに、ドージコインのブロックヘッダーを指す値を書き込んでおく。計算したハッシュがライトコインの目標を下回れば、これまでどおりライトコインのブロックが取れる。同じハッシュが、ドージコインのもっと低い難易度の目標も下回っていれば、その同じ作業がドージコインのブロックとしても認められる。ドージコインのネットワークは小さいので、こちらの基準は低い。こうしてマイナーは、一回の計算で両方の報酬を受け取る。ドージコイン専用の採掘機は要らないが、使ってはいけないわけでもない。

借りたものではあっても、このハッシュレートのおかげで、プルーフ・オブ・ワークとプルーフ・オブ・ステークの比較では、ドージコインはプルーフ・オブ・ワークの側に入る。時価総額の上位30のうち、今も電力を使った採掘で守られている6つのチェーンの一つである。

この仕組みは、ドージコインの安全性を、たまたまではなく仕組みの上で変えてしまった。51% 攻撃をどこまで防げるかは、今では、ライトコインのマイニングプールがどう動くかで決まる。ドージコインが自分で集めたハッシュレートで決まるのではない。

統治と分配 — 変えられるのは誰か

誰が最初から有利だったか、という点では、ドージコインはビットコインと同じ答えを出した。誰も有利ではなかった。プレマイン (公開前に内部で配っておくこと) も先行販売もなく、報酬が乱数だった時期も、どのマイナーにも同じ確率で当たりが出た。会社がチェーンの持ち分を持ったことも一度もない。パーマーは2015年にプロジェクトを離れ、コミュニティにはびこる投機の空気の悪さを理由に挙げた。マーカスも同じころ開発から退き、のちに@BillyM2kの名でX上の論評者として発言するようになった。2014年に作られたドージコイン財団も、活動をやめ、やがて解散した。そのあと何年か、会社もなく、表に立つ創設者もいないまま、ボランティアの小さな非公式の集まりがコードを保ってきた。

それが変わったのは2021年8月である。ドージコイン財団が非営利の団体として再始動し、3年分の予算を確保して、ドージコインに専念する少人数の職員を雇うことを目標に掲げた。ビットコインと似ていないのは、その顧問の顔ぶれである。ブロックチェーンの顧問にはイーサリアムのヴィタリック・ブテリン、法務と財務の顧問にはイーロン・マスクの資産管理会社を率いるジャレッド・バーチャル、技術の面ではドージコインの中核開発者マックス・ケラー、そしてビリー・マーカス本人が「コミュニティとミーム」の担当として名を連ねた。プロトコルを決める権限は、どの団体も持っていない。財団があってもなくても、ブロックを決めるのは今も採掘とマージマイニングである。それでも、かつて相談する相手もいなかったチェーンに、今はライバルのチェーンの共同創設者と、世界有数の富豪の代理人を含む顧問団がいる。

パーマーが語ったビットコイン

共同創設者は、最初の投稿が何だったのかを、ありのままに語った。

ジャクソン・パーマー(International Business Times UKの取材、2014年12月8日)

当時のビットコインとアルトコインの界隈を、ちょっとからかったんだ。

自分では一度も言っていない主張についても、同じくはっきりしていた。

ジャクソン・パーマー(International Business Times UKの取材、2014年12月8日)

ビットコインとその界隈は、法定通貨を倒すものだと予言したがる。だが私は、ドージコインをそういう「法定通貨殺し」として売り込んだことは一度もない。

ドージコインが本当は何のためにあるのかについても、こう語っている。

ジャクソン・パーマー(International Business Times UKの取材、2014年12月8日)

ドージコインは、本当に楽しくて、ばかばかしい仲間の集まりで、ネットで小銭をチップとして投げ合うのに使う通貨だ。……ドージコインが金融の世界の土台を揺るがす日が来るか。来ない。そもそもそんな意図はなかった。

2014年の時点で、共同創設者が、アルトコインのお決まりの売り文句を、公の場ではっきり断っていたのである。批判の矛先は、やがてビットコインの宣伝文句から、ビットコインの文化へと移った。

ジャクソン・パーマー(Decryptのインタビュー、2018年10月16日)

ビットコインは、ちょっと宗教みたいになってしまった。ちょっとカルトっぽい。技術との付き合い方として、よくないと思う。

そして、ビットコインを形づくる設計の決め方そのものにも、批判を向けた。

ジャクソン・パーマー(ツイートのスレッド、2021年7月)

何年も調べた末に、私はこう考えている。暗号通貨は、もともと右派の、資本主義を極端に推し進める技術だ。税を逃れやすくし、規制による監視を弱め、数を人為的に限る。それらを組み合わせて、推す人たちの富を膨らませる。主にそのために作られている。

「数を人為的に限る」とは、2,100万枚の上限のことだ。ドージコインは、上限を設けず、終わりなく発行し続けることで、まさにこの決め方を避けている。パーマーは、ドージコインに上限がないことを弁護するためにこの文を書いたわけではない。それでも、二つを並べると、話がつながる。供給に上限のない通貨を作った当人が、上限を軸に作られた通貨のほうを、価値を蓄える道具ではなく、富を一部に集める道具だと言ったのである。

下の図は、ドージコインの毎年一定の発行を、ビットコインとほかの10の通貨と並べたものだ。どれも同じ基準にそろえた指数で表している。

ビットコインにとっての意味

ビットコインが「デジタルゴールド」だと言える根拠は、六つの構造的特徴を同時に満たしていることにある。システムの脱中央集権、支配する個人や組織がいないこと、フェアローンチ、創設者が去ったこと、固定供給、そして最初に出たことで積み重なった重みだ。ドージコインは、このうち二つをそのまま満たす。フェアローンチと、およそ6年にわたって会社がなかったことである。三つ目の固定供給は、わざと逆にしている。ビットコインの上限は希少性を生むが、ドージコインの毎年一定の発行は、その逆を生む。貯め込むためではなく、使うための通貨である。システムの脱中央集権については、安全性を自分で築いたのではなく、ライトコインのマイナーから借りている。創設者が去ったことについては、パーマーもマーカスも一度は去り、どちらもまた表に出てきた。一人は批判する側として、もう一人は論評する側としてである。サトシが去ったあとの沈黙とは違う。

ドージコインが実際に示しているのは、ビットコインと張り合う貨幣の理論ではなく、もっと限られたことだ。誰も始めるつもりのなかった、10年に及ぶ自然の実験である。ホワイトペーパーもなく、供給の上限もなく、自分で集めた採掘の基盤もない通貨が、2021年5月には、時価総額がおよそ900億ドルという最高の値に達した。ドージコインの立ち上げを扱ったページの見方では、そこまで押し上げたのは技術の違いではなく、コミュニティとミームだった。これで、ビットコインの価値が希少性から来ているのかどうかに決着がつくわけではない。分かるのは、市場がお金を出すのは希少性に対してだけではない、ということだけだ。ドージコインの生みの親自身も、はっきりそう言っている。しかもそのとき、ビットコインを決定づける特徴を名指しした。自分のコインがわざと避けた、その一つの設計の決め方に、創設者が公の場で反対したのである。