
チャーリー・リーは投稿でライトコインの公開を告げ、変更点を自ら一行に絞っていた。
チャーリー・リー(BitcoinTalkへの投稿、2011年10月9日)ライトコインの目標の一つは、(ビットコインで)うまくいっているところは、よほどの理由がない限り変えないことだ。
実際のコードの差分と照らすと、この一文はむしろ控えめである。変わった設定は四つしかない。プルーフ・オブ・ワークの関数、ブロック間隔、供給上限、半減間隔の四つだ。このうち三つは、ビットコインの数値をちょうど4倍か4分の1にしただけの値であり、残る一つ、プルーフ・オブ・ワークの関数だけは、数値ではなく、仕組みそのものを入れ替えている。
変わったのは四つだけ
| 設定値 | ビットコイン | ライトコイン | 倍率 |
|---|---|---|---|
| プルーフ・オブ・ワーク | SHA-256 | Scrypt | 数値ではなく関数そのものを置換 |
| ブロック間隔 | 10分 | 2.5分 | 4分の1 |
| 供給上限 | 2,100万枚 | 8,400万枚 | 4倍 |
| 半減間隔 | 210,000ブロック | 840,000ブロック | 4倍 |
ブロック間隔を4分の1にしながら、半減までのブロック数を4倍にすると、二つの倍率はちょうど打ち消し合う。ビットコインは21万ブロック × 10分でおよそ210万分、ライトコインは84万ブロック × 2.5分で同じくおよそ210万分になる。どちらも初回の半減までおよそ4年である。ブロックが4倍の頻度で出ても、半減の時期はビットコインと変わらない。ブロックあたりの新規発行も、ビットコインと同じ50枚から始まる。変えたのはブロックが出る速さだけで、通貨が増えていく道筋は、ビットコインのものをそのまま使った。固定供給の比較は15の通貨を取り上げているが、その中でライトコインは、規模だけを変えて、上限のある側に残った通貨である。
同じ発表の中で、まったく動かさなかった設定が一つある。難易度の再調整幅は2,016ブロックごとで、ビットコインの値がそのまま据え置かれた。ブロックが4倍の速さで生まれる以上、再調整の周期はおよそ3.5日に縮む。ビットコインの再調整はおよそ2週間に一度で、ライトコインはその4倍の頻度で、ハッシュレートの変化に合わせている。
Scryptの誤算 — 専用チップに破られた設計の前提
リーは、プルーフ・オブ・ワークの関数を入れ替えた理由を、同じ投稿でこう説明している。
チャーリー・リー(BitcoinTalkへの投稿、2011年10月9日)我々はTenebrixのScryptプルーフ・オブ・ワークをとても気に入った。Scryptを使えば、ビットコインを採掘しながらライトコインも採掘できる。
Scryptは、単なるハッシュ関数ではない。FreeBSD開発者コリン・パーシバルが2009年、バックアップサービスTarsnap向けに設計した鍵導出関数である。ライトコインが採用したパラメーターはN=1024、r=1、p=1である。この設定では、1回のハッシュ試行のたびに約128キロバイトの作業領域をメモリー上に確保し、その領域を繰り返し読み書きしながら答えを導く。SHA-256では計算の速さだけが勝負を決め、専用の回路にすれば汎用のCPUの何百倍もの速度が出る。Scryptはそこにメモリーという制約を足した。専用チップは計算を安く速くできても、メモリーは同じようには安くならない。だから、メモリーへのアクセスで速さが決まる設計にすれば、専用チップを作っても得は小さい、という見立てだった。
この見立ては長くは続かなかった。ライトコインが選んだ128キロバイトという作業領域は、メモリーの中でも小さな部類で、専用チップにそのまま載せられる大きさだった。しかもScryptは、途中の値の一部だけを持っておき、残りを要るときに計算し直せば、使うメモリーを計算の量と引き換えに減らせる。2014年3月、KnCMinerはScrypt専用チップを積んだ採掘機Titanの予約を受け付け、ライトコインの採掘もビットコインと同じく専用機の世界になった。この時期にBitmainがどう伸びたかは、同社を率いたジハン・ウーの記録にある。モネロも、メモリーを多く使わせれば専用機を防げるという同じ前提で、独自のプルーフ・オブ・ワークを組んだが、数年後に同じ形で専用ハードウェアに打ち破られている。
Scryptが変えたのは、解く問題の中身であって、プルーフ・オブ・ワークという方式ではない。ライトコインは今も、電力を使う採掘で自らを守っている。プルーフ・オブ・ワークとプルーフ・オブ・ステークの比較でも、ビットコイン、ドージコイン、モネロと並んで、プルーフ・オブ・ワークの通貨に入る。
併合採掘 — ハッシュレートを借りてフォークを守る
Scryptを使ったことから、誰も狙っていなかったことがもう一つ起きた。ドージコインは2013年12月、ライトコインのフォークであるラッキーコインを通じてライトコインのコードを流用して生まれたチェーンで、同じScryptを使っていた。だが、ドージコインだけを掘るハッシュレートは少なく、悪意あるマイナーがチェーンを乗っ取る51% 攻撃への耐性が乏しかった。2014年4月、リーはその弱点への対策として、ドージコインがライトコイン自身のプルーフ・オブ・ワークをそのまま受け入れる仕組みを提案した。ドージコインの開発陣はその年の8月にこの計画を発表し、AuxPoW(併合採掘を可能にする補助的な証明の仕組み)は同年9月にネットワーク上で稼働を始めた。
この仕組みはマイナーに追加の負担をかけない。マイナーは、ライトコインのブロックを作るためにScryptでナンスを探す作業をそのまま続け、どのみち作るコインベーストランザクションの中に、ドージコインの候補ブロックのハッシュを書き込んでおく。見つかったハッシュがライトコインの難易度を満たしていれば、通常どおりライトコインのブロックになる。同じハッシュがドージコインのずっと低い難易度も満たしていれば、その一つの証明は両方のチェーンで同時に有効になり、マイナーは一回分の計算で二度報酬を受け取る。以来、ドージコインの51% 攻撃への耐性は、自前ではなくライトコインのハッシュレートに支えられている。
統治と分配 — 財団はあっても、決めるのは協力者
プロトコルの決定権を握る単一の主体は、ライトコインにも存在しない。2017年、リーはCoinbaseの技術部門ディレクター職を退き、同年シンガポールで法人登記された非営利団体ライトコイン財団の運営に専念した。財団の役割は開発への資金提供と普及であって、プロトコルそのものを一存で書き換える権限ではない。アルトコイン横断比較は、ライトコインの統治を「寄稿者。創設者は公に活動中」と記している。資金を出す側とコードを書く側が分かれている、この形のことである。
この統治の形が実際に動いた例が、2017年5月10日、ブロック高1,201,536で活性化したSegWit(分離署名)である。署名のデータを取引のデータから切り離し、実質的な処理の容量を増やす変更である。主要な暗号通貨でSegWitを入れたのは、ライトコインが初めてだった。ビットコイン本体がSegWitの有効化を確定させたのは、その数か月後の8月である。
台帳そのものは、2011年の公開のときと同じく、誰でも中身を見られるままである。例外は一つだけで、それも使う人が自分で選んだときに限られる。それが、2022年5月19日、ブロック高2,257,920で活性化したMWEB(取引の金額と送受信先を隠せる、選択制の拡張ブロック)である。資産を任意でこの拡張ブロックへ移す仕組みで、参加は選択制にとどまる。既定の台帳が透明であることに変わりはない。この機能でどこまでプライバシーが守れるかについて、創設者本人の言い方は、いつもどおり控えめだった。
チャーリー・リー(CryptoPotatoの記事、2022年5月)たいていの人には、それで十分だ。ガラス張りの家に住むか、窓のある家に住むかの違いに過ぎない。
リーが語り続けたビットコイン
ライトコインの創設者は、自分の通貨をビットコインの下に置き、その順位を一貫して変えていない。競合する通貨の創設者としては珍しいことだ。
チャーリー・リー(sFOXのインタビュー、2018年)ビットコインは明らかに、いまあるお金の中でもっとも健全で、ライトコインは、私に言わせれば二番目に健全だ。
両者の関係をこう言い換えた。
チャーリー・リー(Benzingaのインタビュー、2025年10月18日)ビットコインは王様のための通貨で、ライトコインは庶民のための通貨だ。
この順位に対する自分の立ち位置を、リーが一度だけ変えたのが、2017年12月20日である。本人はこの日、自身のライトコイン保有をすべて売却または寄付したと公表し、理由を利益ではなく自分の発言の重みに置いた。
チャーリー・リー(TechCrunchの記事、2017年12月20日)私がLTCを空売りしていると考える人さえいる。だからある意味で、LTCを持ちながらそれについて発言するのは利益相反なのだ。私はそれほどの影響力を持ってしまっている。
リーは、自分が作った通貨を手放すことで、その通貨について語る自分の立場に、自分で歯止めをかけた。ビットコインについては、その制限を課さないまま語り続けている。
下の図は、ライトコインの供給の推移を、ビットコインとほかの10の通貨と並べたものだ。どれも同じ基準にそろえた指数で表している。
ビットコインにとっての意味
ライトコインが示しているのは、ビットコインの設定値が物理法則ではなく選択だったという事実だ。ブロック間隔も、供給上限も、半減の間隔も、4倍か4分の1という同じ比率で動かしても、通貨は矛盾なく動く。ビットコインの構造的特徴で挙げた六つの特徴のうち、システムの分散、公正な配分、固定供給の三つを、ライトコインはそのまま引き継いだ。
引き継げなかったものの一つは、創設者がいなくなることだった。サトシは2011年を境に消え、二度と語らなかった。リーは残り、10年以上にわたってビットコインについて語り続けている。そのリーが2017年、自分の発言が値動きを左右することを理由に、話すことはやめず、持っていたライトコインのほうを手放した。ライトコインは、創設者がプロトコルを書き換える権限を最初から持たない設計で、その創設者は、コインを持たないと自分で決めた。サトシの不在が沈黙によって成立した条件だとすれば、リーが試みたのは、その逆のやり方だった。表に残って話し続けながら、自分の話で値が動いてしまうコインは一枚も持たない、というやり方である。










