ビットコイン・インスティテュート

カルダノ:プルーフ・オブ・ステークと​3団体に​よる​統治、​立ち上げ直後は​開発元が​全ブロックを​生成

定義: カルダノ (9)

暗い背景の図解。輪になって尾をくわえる矢印の意匠、ステークの重みに応じて濃淡が変わる小さな四角の列、重なり合う3つの円、右肩下がりに落ちていく棒のグラフ、そして最下部に並ぶ三つの説明枠。

(why.cardano.orgの公式文書)

暗号通貨にプルーフ・オブ・ステークを使うかどうかは、議論が大きく分かれる設計の選択である。それでも我々はこれを採ることにした。安全に投票できる仕組みを加えられるうえ、規模を広げやすく、これまでにない誘因の仕組みも取り入れられるからである。

カルダノ自身の設計解説ページが、こう書いている。意見の分かれる選択だと自ら認めたうえで、それでも採ると言い切る書き方は、暗号資産の設計文書としては珍しい。

カルダノは2020年7月、この意見の分かれる選択を取り入れた本番のネットワークを公開した。だが最初の2週間、ブロックを作っていたのは、開発会社IOGが動かす中核のノードだけで、そのノードのブロックが一つもなくなるまでに、8か月かかった。

2015アジアで 引換券の一般販売を開始 (10月)2017販売終了、 20% をIOHK・EMURGO・財団へ配分 (1月)2020Shelley 本番網、 d=1で起動 (7月)2021d=0 到達、IOGの中核ノードのブロックなし (3月)2023SEC が ADAを名指し、 IOG が反論(6月)2024ChangハードフォークでCIP-1694 統治が稼働(9月1日)

設計文書が挙げる、ビットコインとの違い

この設計解説ページは、合意形成の選択に続けて、ビットコインと違う点をさらに二つ挙げている。どちらも、たまたまではなく、わざとそうしたのだと書いている。一つは作りの分け方で、価値を動かす層と、契約の処理を実行する層を分ける。

(why.cardano.orgの公式文書)

そこで我々は、価値の動きの記録と、その価値がなぜ動いたのかという背景とを、切り離す立場を選んだ。

決済の層が価値を動かし、別の計算の層が契約の処理を実行する。価値の記録と、その価値が動いた理由とを、初めから別々の層で扱う考え方である。

もう一つは識別子の扱いで、こちらのほうが違いがはっきりしている。設計文書は、受け継がなかったものとして、ビットコインを名指ししている。

(why.cardano.orgの公式文書)

ビットコインと同じころの設計は、仲介する中央の存在をなくし、利用者を匿名にしようとするあまり、商取引に欠かせない、変わらない身元や付帯情報、評判まで捨ててしまった。

ビットコインに変わらない識別子がないことを、技術で直すべき弱点としてではなく、カルダノが初めから受け継がないと決めたものとして挙げている。供給の軸では両者は一致していて、固定供給と自動調整の比較は、カルダノを、ビットコインと同じ「上限あり」の側に分けている。分かれているのは合意形成と識別子だ。

仕組みの中身:Ouroborosのくじの引き方

カルダノの合意形成はOuroborosと呼ばれる一連のプロトコルで成り立つ。2017年の起動当初はOuroboros BFT、すなわちIOHKが運用する少数の中核ノードどうしが、足並みをそろえて合意する方式だった。分散型に切り替わったのは2020年7月のShelley本番網公開で、ステークの重みに応じて参加者を選ぶOuroboros Praosに移っている。このPraosは、査読を経てEUROCRYPT 2018で発表された学術論文を土台にしている。

ブロックを作る人の決め方は、決まった順番ではなく、くじ引きに近い。1秒を単位とする「スロット」が432,000個集まって一つの「エポック」になる。現実の時間ではおよそ5日である。各エポックの初めに、それまでのブロックがためてきた乱数をもとにして、新しい乱数が決まる。ステークプールの運営者は、この乱数と自分の秘密鍵、そして狙うスロットの番号を検証可能ランダム関数 (VRF) に入力する。出てきた値が、自分の保有ステークの割合に応じたしきい値を下回っていれば、そのスロットでブロックを作る権利を得る。ステークが多いほどしきい値も緩くなるので当選しやすくなるが、当選するスロットは本人を含め誰にも事前にはわからない。平均するとおよそ20秒に一つ、新しいブロックが生まれる。

このくじを、ハッシュパワーで引くビットコインのくじと、電力、確定、ナカモト係数の三つの点で比べたのがプルーフ・オブ・ワークとプルーフ・オブ・ステークの比較だ。そこでのカルダノのナカモト係数は15である。

参加をうながす仕掛けは、もう一つの数字で決まる。「飽和点」と呼ばれる上限で、kというパラメーターが決める。あるステークプールが受け取れる報酬は、そのプールへの委託量がこの上限に達するまでしか増えない。上限を超えて委託しても、報酬は薄まるだけで増えない。

時期kの値一プールあたりの飽和点(目安)
2020年7月、Shelley公開時150約2億1,200万ADA
2020年12月6日以降5006,400万ADA未満
2022年10月時点、同じk=500500約7,000万ADA
提案中(1,000への引き上げ)1,000約3,800万ADA

表の中で目を引くのは、kが変わっていないのに飽和点が動いている行だ。飽和点はおおむね「(供給上限450億枚 − 準備金の残り)÷ k」で決まる。ステーキング報酬は毎エポック、この準備金から支払われて市場に出回るので、準備金はkを動かさなくても年々目減りする。k=500のまま飽和点だけが2020年末の6,400万枚未満から2022年の約7,000万枚へ動いたのは、この目減りが理由である。kそのものを動かした2020年12月の変更(150から500へ、飽和点は3分の1以下に)とは、性質の異なる変化だ。

kを次にいくつにするかは、いまはIOHKが一人で決めるのではなく、投票で決まる。誰が投票するのかが、この設計のもう一つの層であり、以下で扱う。

供給・配分・統治:数字で見る変化

供給には上限がある。450億枚で、アルトコインの数と設計の比較でも、ビットコインと同じく、供給を増やし続けない側に分けられている。だが、上限までの歩みは、ビットコインとはまるで違った。

2015年10月から2017年1月にかけて、カルダノはアジアで四段階の引換券の一般販売を実施し、販売分の20% にあたる5,185,414,108 ADAをIOHK・EMURGO・カルダノ財団の三者に割り当てている。創設者はこう述べた。

チャールズ・ホスキンソン(ツイート、2023年11月)

カルダノにICOはなかった。あったのは、配る相手を決めたうえでのエアドロップだ。そのあと、互いに会ったこともない何千人もの人が、取引所でADAを売り買いし、自分たちのプロジェクトにカルダノを使った。

「ICOではなくエアドロップだった」という言い分が正しいかは、言葉をどう定義するかの問題である。配分そのものは争点ではない。プロジェクト自身が公開している数字だからだ。

合意形成でも、最初の一歩は集中から始まった。Shelley公開直後の2020年7月、集中の度合いを表すd(1なら全部、0ならなし)の値は1、つまりすべてのブロックがIOGの中核のノードから出ていた。

(IOGの技術ブログ)

d=1のとき、すべてのブロックはIOGの中核ノードがOuroborosビザンチン障害耐性 (OBFT) 方式で生成する。

2020年8月13日にdが初めて1を下回り、コミュニティのステークプールもブロックを作るようになった。IOGの中核ノードのブロックがゼロになるd=0に達したのは2021年3月、8か月後である。

プロトコルの規則を決める権限は、そのあともずっと、配分を受けた三つの団体の手にあった。20% の配分を受けたIOHK、EMURGO、カルダノ財団が、プロトコルを更新する権限そのものを持ち続けたのである。その形が変わるのは2024年9月1日、CIP-1694と呼ばれる統治の仕組みを導入したChangハードフォークによってである。憲法委員会、代理投票者 (dRep)、ステークプール運営者という三つの新しい統治の担い手が生まれ、三団体が握っていた更新権限はチェーン上の投票へ段階的に移された。投票の仕組みのもとをたどると、2020年9月に始まったコミュニティ資金配分の投票実験Project Catalystにさかのぼる。

カルダノが試されたのは統治の刷新だけではない。2023年6月、SECはバイナンスとコインベースへの提訴の中でADAを無登録証券だと主張した。Solanaの通貨概説が記録している通り、同じ提訴はSOLも同じように扱っており、その後の成り行きも同じだった。バイナンスに対する訴えからはSOLとADAの主張がのちに取り下げられ、コインベースに対する訴訟自体も2025年2月に棄却されている。IOGは当初からこの位置づけを否定していた。

創設者が語ったビットコイン評

この設計を主導したチャールズ・ホスキンソンは、ビットコインについて、十二年にわたって公の場で語り続けてきた。StartEngine Summitの会期中に受けた取材で、彼は異議と賛辞を一つの答えの中に並べた。

チャールズ・ホスキンソン(Bitcoin Magazineの取材、2018年11月19日)

ハッシュレートと、それを誰が握っているかを見てほしい。ビットコインのネットワークのハッシュレートを動かしているのは、参加者の10% にも満たない。それで分散していると言えるだろうか。サトシがやったことは、まったく魔法のようで、すばらしい。チューリング賞に値する。驚くべきものだ。

この異議は、そもそもプルーフ・オブ・ワークをやめる理由にもなっている。採掘でも結局は一部の者に支配が集まるのなら、仕組みを替えるのは手抜きではなく、まっとうな修正だということになる。

同じ取材で彼は、2014年4月にトロントで開かれた会議での逸話を語っている。ビットコインでの支払いを受け付けるバーベキュー料理店で、会計になると、同行者はビットコインが値上がりすると思うのでクレジットカードを使う、と言った。その結論はこうだ。

チャールズ・ホスキンソン(Bitcoin Magazineの取材、2018年11月19日)

それで、はっきり分かった。これはお金ではない。商品、あるいは価値の保存手段だ。

2018年のこの取材から六年後の2024年には、評価がすっかり逆になっていた。

チャールズ・ホスキンソン(crypto.newsの記事、2024年5月23日)

業界が生き延びるのに、もはやビットコインは必要ない。

あれは宗教であって、エコシステムではない。

だが、この見方も長くは続かなかった。ホスキンソンの人物紹介がより詳しい経緯を追っている。半年後の同年11月、彼はビットコインをインターネットにおける価値の保存手段と呼んだ。2018年の取材で語った「価値の保存手段」という見方を、半年前に捨てたはずなのに、そのまま言い直したことになる。

下の図は、カルダノの供給の推移を、ビットコインとほかの10の通貨と並べたものだ。どれも同じ基準にそろえた指数で表している。

ビットコインにとっての意味

ビットコインがわざと手をつけずにいる点に、カルダノの設計は一つずつ答えを出している。合意形成には、プルーフ・オブ・ワークではなく、くじ引き型のプルーフ・オブ・ステークを使う。ビットコインが作ろうとしなかった、身元を示す識別子の仕組みを備える。規則を変える権限も、名前の分からないノード運営者たちの大まかな合意ではなく、名前のはっきりした三つの団体から始まった。合意形成のもとも、ビットコインのソースコードではなく、プルーフ・オブ・ステークの学術研究にある。そのため、フォークと隣接通貨の系譜がたどる、ビットコインのコードから枝分かれした通貨の流れに、カルダノは入っていない。

それでも、ビットコインについて語られたこの言葉は、ビットコインの歴史の一部として残る。ビットコインのハッシュレートを握っているのは「参加者の10% にも満たない」と語った当人が率いるチェーンは、自分の本番網を、集中の度合いが最大のd=1で始めている。プルーフ・オブ・ステークとチェーン上の投票は、集中から抜け出すことを約束した。実際に抜け出すまでに何年かかったかという記録も、比べる材料としてビットコインの歴史に残る。六つの構造的特徴に照らすと、合意形成の技術とシステムの分散はカルダノも早くから満たしてきた。人と組織の分散だけが、満たすまでに数年を要した。ビットコインの設計が異例なのは、この二つの尺度を最初から同時に満たしていた点にある。

参照元の外部ソース

https://cardano.org/
cardano.orgは、このエントリーの基本の入口として使う。合意形成・供給・統治・配分に関する個別の主張は、それぞれの一次資料または学術論文に出典を持つ。