
2008年11月、レイ・ディリンジャーはビットコインのソースコードのうちブロックチェーン部分をレビューした。事前公開監査は分業制で、スクリプト言語の担当はハル・フィニー、サトシが二人の質問に答えつつ自らも質問するという体制だった。ディリンジャー自身、13年前の1995年に大学院のネットワーキングクラスの研究論文でブロックチェーンを使ったデジタルキャッシュの設計を手がけており、サトシの暗号学的なコードは緻密だと判断した。指摘した懸念は文体ではなく構造に関するもので、初期ネットワークが強力なアクターに攻撃されうる点と、ネットワークが大きくなった時の帯域幅の問題だった。
全文はこちら。ローンチ後、ディリンジャーはマイニングに参加せず身を引いた。プルーフ・オブ・ワークのハッシュにゼロ以外の価値がつくとは思えず、帯域幅の要件も実用的でないと判断したためだ。2017年から振り返れば、タイトルが示す通り、もっともらしい技術的判断が実は何が始まろうとしていたかを見誤った例になっている。
ディリンジャーがサトシを詐欺師ではないと確信した決め手は、コードではなくマイニングの振る舞いだった。「サトシは約100万ビットコインを採掘したが、一度も売らなかった」。ディリンジャーはこの自制を個人的利益への無関心の何よりの証拠と読み、その後に続いたものと明確に対比させる。彼の数え方では3,000を超えるアルトコインのほとんどが、本人いわく人を騙すと分かった上で作られたものだった。アーカイブ自身のアルトコイン・ICO詐欺の集計もこの見立ての大枠を裏付けている。Satis Groupの調査は2017年前後のICOのおよそ78% を詐欺と判定した。ディリンジャーはこうしたICOを名指しして「露骨な株価操作とインサイダー取引」に似ていると評しており、正当なブロックチェーンのプロジェクトはその連座で割を食った。
レイ・ディリンジャーのウェブ文書(2017年9月20日)サトシは料金所のない高速道路を作ったんだ。彼はコインを売っていたんじゃない。ハッシュを解いた者に与えていたんだよ。
この一文は、ディリンジャー自身が身を引いた理由と並べると重みを増す。彼はこの高速道路に乗る価値はないと判断し、その後、他の全員がその上に料金所を建てていくのを見ることになった。
本記事は2017年9月20日にLinkedInに公開され、翌9月21日にHacker Newsのトップページに達し、329ポイントと86件のコメントを獲得した。
ディリンジャーはここでハル・フィニーとの分業を概観しているが、その監査にはより深い技術的な中身がある。浮動小数点による会計の発見とsatoshi精度の設計判断は、ティム・スワンソンによる2018年のインタビューで詳しく語られている。
ここでディリンジャーが語った「サトシは約100万BTCを採掘しながら一切売らなかった」という証言は、5年後に発表されたジェイムソン・ロップの2022年のデータ分析によって裏付けられ、数値としても示されている。ロップの試算では、サトシの実際の採掘量はフル稼働時に得られたはずの量のおよそ半分にとどまっていたという。





