
マイク・ハーンはサトシに、2100万枚という上限の計算過程を見せてほしいと頼んだ。サトシはまず計算を示した。2100万枚を、1ブロック50 BTCで4年ごとに半減させて出していくと、ちょうど10分に1ブロックになる。そのあとに、計算とは関係のない理由を書いた。
サトシ・ナカモト(マイク・ハーン宛のメール、2011年1月10日16:34 UTC)100 BTCと4200万枚も考えたが、4200万は多すぎるように思えた。
典型的な金額が馴染みのある範囲になるようにしたかった。100000単位をやり取りしていると、希少に感じない。脳は0.01から1000の範囲の数字をより扱いやすい。
非常に大きくなれば、小数点を2桁移動させて、セントが新しいコインになる。
コインの大きさは、人がお金を数える感覚に合わせて決められていた。そしてサトシが挙げた範囲には下の端がある。0.01、つまり100分の1、セントである。この下の端は、1通のメールの言葉のあやでは終わらない。最初のリリースの定数であり、画面の表示が止まる桁であり、最初の手数料の単位であり、サトシが2年あまり、ほかの語に置き換えずに使い続けた言葉でもある。このページでは、記録の中のセントを順に追い、それが数えていた本人について何を語るかを見る。
1. 記録の中のセント
最初の一つはホワイトペーパーそのものにある。第9節は、トランザクションが複数のインプットとアウトプットを持つ理由を、「送金のすべてのセントに対して個別のトランザクションを作成するのは扱いにくい」と説明する。まだ存在しない通貨で価値を分ける話をするのに、サトシが手に取った単位はセントだった。
2. コインの大きさを決める
数字はリリースの前に決まっていて、説明はあとから来た。2008年11月、サトシがレイ・ディリンジャーにレビューのために送ったコードには、すでにこの形があった。そのジェネシスブロックの出力は1 CENT、つまり1コインの100分の1で、報酬はブロックあたり100コイン、10万ブロックごとに半減する。このままなら総量は2000万枚に近づく。2009年1月のリリースで報酬は50、間隔は21万ブロックになり、総量は2100万枚になった。
説明は聞かれたときに出てきた。2009年4月にはハーンにこう書いている。「既存の通貨と同程度の価格になるようなものを選びたかったが、将来を知ることなくそれを行うのは非常に困難だ。結局、中間的なものを選んだ」。2010年12月にもハーンに「普及したときに低すぎず、普及しなかったときに高すぎない、その間を取りたかった」と書いた。そして冒頭の2011年1月のメールで、範囲そのものを示した。0.01から1000である。
三つの答えは同じ方向を向いている。上限は貨幣の理論から導かれたものではない。固定供給と自動調整供給の分析が示すとおり、記録の中にその論証はない。ふだんの額がふだんの値段に見えるように選ばれ、普及したときの手当ては、上限ではなく小数点を動かすことだった。サトシは2011年より前に2度、例を付けてそう書いている。2009年4月には「0.001が1ユーロに相当する場合、小数点の表示位置を変える方が簡単かもしれない」として、1ビットコインを1000と表示する案を示した。2010年2月には、小数点を3桁動かせば1.00000が1,000.00になると書いた。金額は同じで、カンマと小数点の位置が変わるだけである。
3. v0.1が数えていた単位
2009年1月のリリースは、すべての金額を小数8桁の64ビット整数で持ち、利用者にはそのうち2桁だけを見せていた。
| v0.1.0の場所 | コード | していること |
|---|---|---|
main.h | COIN = 100000000、CENT = 1000000 | 1コインは10⁸単位、1 CENTは10⁶単位で、1コインの100分の1 |
util.cppのFormatMoney | n /= CENTのあと"%I64d.%02I64d" | CENTで割って小数をちょうど2桁出し、3桁ごとにカンマを入れる。表示は1,234.56の形 |
util.cppのParseMoney | nCents、> 99なら拒否 | 小数点の後ろはちょうど2桁だけ受け付け、それより細かい額は入力できない |
main.hのGetMinFee | (1 + nBytes / 1000) * CENT | 手数料がかかるとき、最低額は1キロバイトごとに何CENTかで数える。割引の条件が立っていれば、10,000バイト未満の取引は手数料なし |
セントより下の6桁は、最初からあり、最初から隠されていた。2010年2月、ビットコインは分割できるのかとBitcoinTalkで聞かれたサトシは、「表示されていない小数点以下6桁がさらにあり、内部的には合計8桁の小数点だ。1.00と表示されているが、内部的には1.00000000だ」と答えている。その7か月後、どこまで分けられるのかを聞かれると、その桁を使うこと自体を勧めなかった。
サトシ・ナカモト(BitcoinTalkへの投稿、2010年9月23日18:39 UTC)追加の小数点以下の桁数を使用することは推奨しない。それらは将来の使用のためにのみ意図されている。
0.01以上でも追加の精度を持てるというのはその通りだが、受信者はそれを確認できない。UIでは切り捨てて表示される。
6桁は、いつか小数点を動かす日のためにあった。その日までは、人が見て打ち込める最小の額は1セントだった。小数点が動かされることはなかった。代わりに2011年2月、サトシの掲示板への最後の投稿の2か月後に、利用者たちが1億分の1に名前を付けた。落ち着いた名前は、サトシの名前だった。
4. 手数料は1セントだった
トランザクション手数料についてサトシが最初に公の場で示した案は、2008年11月10日のものである。額も同じ単位で書かれている。「任意のトランザクションのアウトプット値をインプット値より1セント少なくする」。2009年2月のv0.1.5のリリースノートには「1セント未満のトランザクションに最小手数料を設定」とある。2010年を通じて、スパムや大量送信についてのフォーラムの回答で、サトシは手数料を0.01と書き、8月にはトランザクションごとのプルーフ・オブ・ワークよりよい手段だとして「0.01は基本的にProof-of-workだが、無駄にならない」と書いた。10月のv0.3.13のリリースノートは「1セント未満の端数のお釣りで最後の1セントを送金する際の問題を修正」している。
ビットコインが何に使われるかを描くときも、単位は同じだった。公開から1週間後の2009年1月16日、v0.1のリリースのスレッドで、サトシは軌道に乗った先をこう書いている。「一度軌道に乗れば、ウェブサイトに数セントを、自動販売機にコインを入れるように手軽に払えるとしたら、応用はいくらでもある」。
5. どのセントか
セントを持つ通貨はたくさんある。そこで次に、サトシ自身がどの通貨の名前を書いたかを確かめる。アーカイブにあるサトシのメール・フォーラム投稿・コードから、他人の文を引用した行を除いて数えると、次のようになる。
| 通貨 | 本人の文に出た回数 | 誰が出した額か |
|---|---|---|
| ドル | 6 | 自分から出したのは2回で、帯域の費用の見積もり「$18」(2008年11月)と「US$ 0.02」(2009年5月にマルミへ送った回答のまとめ)。残りの4回は、他人が先に出したドルの額を受けている。寄付の申し出、ホスティングの見積もり、その寄付の会計の書き方の例、フォーラムの利用者が計算した1枚あたりの費用である |
| ユーロ | 2 | 自分から出したのは1回で、ハーンへの「1ユーロ」の例。ハーンは当時Googleのチューリッヒ事務所で働いており、スイスの通貨はフランである。もう1回は、マルッティ・マルミが書いた「euros」を返事で繰り返したもの |
| ポンド | 0 | — |
| 円 | 0 | — |
| セント | 全期間 | 自分から。ホワイトペーパーから2011年1月まで |
v0.1.0のソースには、通貨の名前が一つも出てこない。出てくるお金の単位はCENTだけである。
セントだけでは、国籍の分析が残した争点は決まらない。ドルにもユーロにもセントがあり、カナダやオーストラリアをはじめ、ほかの多くの国の通貨にもある。記録はそのどれか一つに絞らない。活動時刻の分析も、あのページのとおり二つの違うタイムゾーンを指したままである。
セントが決めるのは、プロフィールの唯一の主張のほうだ。日本では1953年の年末を最後に、1円未満の硬貨と紙幣がなくなった。小額通貨の整理及び支払金の端数計算に関する法律が、銭と厘を流通から外したのである。銭と厘は為替の値などの計算の単位として残っているが、それで払う人はいない。ふだんの買い物を円で払っている人には、0.01に置く硬貨がない。サトシの範囲の下の端は、セントを持ち歩いていた人の習慣から来ている。
プロフィールの名前は日本人のものだった。コードの単位はセントで、2年あまりの文章の中で、それが一度も円に変わることはなかった。「0.01から1000」は、サトシが自分について書いた中でいちばん無防備な一文だ。どこに住んでいるかという主張ではない。そういう主張は一度しかしていない。書いてあるのは、ふだん手にしていた小銭の大きさである。

















