
2021年9月7日、ビットコインはエルサルバドルの法定通貨になった。市場に受け入れられたのではない。法律がそう定めたのだ。ビットコイン法第7条は受領を義務とした。この国で商売をする者は誰でも、客がビットコインで払うと言えば、それを受け取らなければならなくなった。こんな国は、それまで一つもなかった。国家がビットコインについて方針を変え、押収し、準備資産にすると宣言した例は、のちに数多く積み重なっていく。その記録の最初の一件が、これである。
賛成62票、84議席中で可決
ビットコイン法を推し進めたのはナジブ・ブケレ大統領だったが、票を投じたのは立法議会である。2021年6月9日未明、議会は法令57号「ビットコイン法」(日付は6月8日)を、84議席中62票の賛成で可決した。法令は、その日のうちに、6月9日付の官報(第431巻110号)に載った。
施行前から始まった異議
法が効力を持つ前から、反対の動きは表に出ていた。市民のグループが、ファラブンド・マルティ民族解放戦線(FMLN)の議員ハイメ・ゲバラと共同で、ビットコイン法は憲法に反するとして、エルサルバドルの憲法法廷に訴えを起こした。この提訴は、こう報じられた。
(Cointelegraphの記事、2021年6月)市民のグループが政党ファラブンド・マルティ民族解放戦線(FMLN)と共同で、ブケレ大統領のビットコイン導入政策を違憲だとする訴訟を提起した。
90日後、世界で初めての日
施行の日は、法の末尾で定められていた。官報への掲載から90日後に施行する、という経過規定である。その90日が満ちたのが、2021年9月7日だった。その朝の報道はこうだった。
(CoinDeskの記事、2021年9月7日)ビットコインは今、エルサルバドルで正式に法定通貨となった。同国議会がビットコイン法を可決してから3か月後のことだ。
法が定めたこと
| 条項 | 規定内容 |
|---|---|
| 第1条 | 法の目的を定める。ビットコインを、制限のない「法定通貨」とし、どんな取引でも額の上限なく支払いに使えるとする |
| 第4条 | 税の支払いをビットコインで行うことを認める |
| 第5条 | ビットコインを両替して得た利益には、ほかの法定通貨と同じく、キャピタルゲインの税をかけない |
| 第7条 | 受け取りを義務とする。客がビットコインで払うと言えば、商売をする者は誰でもこれを受け取らなければならない |
法の中で特に重要だったのは、第1条と第7条だった。
(ビットコイン法の条文、2021年6月9日)第1条:「本法の目的は、ビットコインを、制限のない法定通貨として定めることにある。ビットコインは、どんな取引でも額の上限なく支払いに使え、公私を問わず、個人も法人も、どんな名目の支払いにも使うことができる。」
第7条:「財・サービスの提供を受ける者からビットコインでの支払いを申し出られた場合、あらゆる経済主体はこれを受領しなければならない。」
この受領の義務は、2025年1月には法文から消えた。1月29日、立法議会は賛成55、反対2でこれを削除し、官報への掲載は翌日だった。
第4条と第5条は、ビットコインを既存の法定通貨と対等に扱う原則を、税の面で定めていた。税金のかけ方も、既存の法定通貨とまったく同じである。
(ビットコイン法の条文、2021年6月9日)第4条:「税の支払いはビットコインで行うことができる。」
第5条:「ビットコインでの両替は、他の法定通貨と同様、キャピタルゲイン課税の対象としない。」
Chivo:30ドルの特典と波乱の船出
政府自身のウォレットChivoは、法の施行と同じ日に始動した。登録したエルサルバドル人には、誰にでも、新しい口座に30ドル分のビットコインが振り込まれた。政府が自分のお金で用意した、普及のための特典である。船出は穏やかではなかった。その後に起きたことは、こう記録されている。
(Wikipediaの「ビットコイン法」の項)政府は、アクセスが集中しすぎたため、ビットコインの電子ウォレットChivoを止めるしかなかった
それでも、始まって1か月のうちに、Chivoをダウンロードした人は約300万人に達した。「人口の46% に相当する」数である。
ビットコインにとっての意義
ビットコインは、使うのにも、使わないのにも、どの機関の許可も要らないように設計されている。政府がスイッチ一つで使用を認めたり禁じたりできる、中央の仕組みがないからである。エルサルバドルのビットコイン法は、このうち、使わないことにも誰の許可も要らない、という点をひっくり返した。ビットコインを使うかどうかは、もう一人一人が自由に選ぶことではなくなり、受け取りが法律で義務づけられた。そして政府は、ビットコイン用の口座を開いた人に、一人30ドルずつ払った。どの機関にも頼らずに済むよう作られたプロトコルが、結局、政府の後押しを受けることになった。その後押しがもたらしたのは、誰にも使うのを止められないようにすることではなく、受け取らないことを違法にすることだった。




