
55対2。これが、2025年1月29日にエルサルバドル議会がビットコイン法から、ビットコインの受け入れを義務づけていた文言を削った採決の結果である。この変更はIMFが2022年から求めていたもので、4週間後にIMFの理事会が承認する14億ドルの融資の前提条件でもあった。ところが、義務を手放した同じ政府は、その後もビットコインを買い増した。買い増して増えていったビットコインの準備は、融資の条件では、増やさないことになっていたものである。エルサルバドルは、およそ30の政府のビットコイン政策の転換を追った調査で取り上げた国の一つである。
三年間放置された勧告
IMFの理事会は2022年1月24日、エルサルバドルとの2021年第4条協議を終了した。その発表は、エルサルバドルに何を求めるかをはっきり書いていた。
(IMFのプレスリリース、2022年1月25日)当局に対し、ビットコインの法定通貨としての地位を撤回することで、ビットコイン法の適用範囲を狭めるよう強く求めた。
理事会が挙げた理由は、金融の安定、消費者保護、金融の健全性に対するリスクと、この法が生む財政上の偶発債務だった。エルサルバドルがこの勧告に応じたのは3年後で、融資が交渉の場に上ってからだった。
14億ドルの代償
IMFはエルサルバドルとの間で14億ドル・40か月の拡大信用供与措置(EFF)について実務者レベルで合意したと発表した。合意の文書は、エルサルバドルが何を手放すことになるかをはっきり書いていた。
(IMFのスタッフレベル合意の発表、2024年12月18日)民間部門によるビットコインの受け入れは任意とし、公共部門のビットコイン関連活動への関与は限定する……政府による暗号資産ウォレット(Chivo)への関与は段階的に縮小する……税は米ドルでのみ支払うものとする。
条件はChivoウォレットだけにとどまらなかった。公共部門による新規購入については、「プログラムの期間を通じて、公共部門の事業体が新たにビットコインを取得する量の上限をゼロとする」という、期間中ずっと守るべき基準が課された。「ビットコインに連動する、またはビットコイン建ての、あらゆる種類の債務やトークン化した商品」を出すことも禁じられた。
| EFF条件(2024年12月) | 内容 |
|---|---|
| 民間部門の受け入れ | 義務から任意へ |
| Chivoウォレット | 政府の関わりを段階的に減らし、2025年7月までに公金を出すのをやめる |
| Fidebitcoin信託 | 2025年7月までに清算 |
| 透明性 | 政府保有の全ウォレットアドレスを公表、Chivoユーザー資金を分離 |
| 監査 | ビットコイン関連の公共部門事業体について監査済み財務諸表を提出 |
| 新規購入 | 期間中ずっと守る基準として、公共部門が新たに買う量の上限をゼロにする |
| 債務 | ビットコインに連動、またはビットコイン建ての債務やトークン化商品を禁止 |
改正が実際に変えたもの
議会は2025年1月29日、55対2の賛成多数で改正法を可決した。翌1月30日付の官報に、立法令第199号として掲載された。官報の文言は次の通りだ。
(立法令第199号の官報の文言、2025年1月30日)どんな価格もビットコインで示してよい……ビットコインを受け取ってよいのは、個人と法人が、自分の意思だけで加わる場合に限る……中央準備銀行および金融システム監督庁に関連規則の発行を指示する……政府の国内外の金銭債務は、契約時の通貨で支払うことを義務づける。
同じ法令を扱った別の法律の解説は、さらに、旧法の条文のうち三つがそのまま削られたと書いている。
(Latin Counselの法律解説)第4条・第8条・第9条は廃止され、ビットコインをその場で自動的に米ドルに替える手段を用意するなど、ビットコインの取引の仕組みを整える国家の義務がなくなった。同様に、国家が税の支払いをビットコインで受け付けることも認められなくなった。
改正は、受け入れの義務だけでなく、法定通貨という地位そのものまでなくしたのか。この点まで踏み込んで報じたメディアは、ほとんどない。融資条件を報じたDecryptは、この変更を「公共部門・民間部門がビットコインでの取引を受け入れる義務の撤廃」とのみ表現し、受け入れが任意になったと述べるにとどまる。法定通貨という呼称そのものには触れていない。中米の法律解説メディアはその呼称の問題を直接扱い、「ビットコインを法定通貨とする言及は削除され、その使用は任意となった」と報じる。二つの報道を並べても、実は食い違っていない。受け入れの義務はなくなった。そして、この点を扱った唯一の報道によれば、ビットコインを「法定通貨」とする文言も、法律から消えている。
理事会の承認
IMF理事会は新たな拡大信用供与措置を承認した。
(IMFのプレスリリース、2025年2月26日)14億米ドル相当の融資枠……SDR 8,616万(約1億1,300万米ドル相当)の即時支払い……プログラム期間を通じて35億米ドルを超える総合的な資金パッケージ。
約1億1,300万ドルはただちに実行された。IMFは、この措置がプログラム期間を通じて他の多国間・二国間の資金源から35億ドルを超える資金パッケージを呼び込むと見込んでいると述べた。この額は、融資そのものよりはるかに大きい。ただし、それは、エルサルバドルが署名したばかりの条件を守り続けることが前提だった。公共部門の新規購入をゼロに抑える条項もその一つである。
それでも続いた購入
ナジブ・ブケレ大統領は、承認から数日もたたないうちに、購入をゼロに抑えるこの決まりを、早くも揺さぶり始めた。
(ブケレの購入の報道、2025年3月)3月3日、ブケレは新たな購入を発表し、同国の保有総額は6,100 BTCに達した。
こうした動きは一度では終わらなかった。2026年の前半から中盤にかけて、エルサルバドル政府は戦略的ビットコイン準備に1日あたりおよそ1ビットコインを加え続けた。その間も、公共部門の新たな購入をゼロに抑える基準は、取り消されてはいなかった。
(Yahoo Financeの記事)ややこしいのは、プログラムが始まってからも、エルサルバドルが報告する保有高が増え続けている点だ……IMFの説明では……この増加は……公共部門が市場で新たに買ったものではなく……政府が持つ複数のウォレットのBTCを一か所にまとめたことによるものだという。
保有高が増えることと、購入の上限がゼロであることは、IMF自身の説明では、「買う」ことと「まとめる」ことを分けて考えれば矛盾しない。国がすでに持っていたコインを政府の別のウォレットへ移しても、プログラムの決まりでは、新たに手に入れたことにはならない、というのである。それでも、2026年7月下旬までにエルサルバドルのビットコインの準備高は増えていた。この準備高は、ほかの政府・企業・ETFの残高と一緒に、誰がビットコインを持っているかをまとめたページで追っている。BitcoinTreasuries.netはその数字を直接示す。
(BitcoinTreasuries.netのデータ、2026年7月)エルサルバドルは ₿7,723を保有……評価額はおよそ4億9,320万米ドル……ビットコインを保有する政府機関の中で5位にランクされている。
ビットコインを持つ世界の政府の中で、5番目に多い。しかもこれは、エルサルバドルに14億ドルの融資をもたらした契約が、増やさないよう定めていた残高なのである。
ビットコインにとっての意義
議会は2021年、法律に「法定通貨」という言葉を書き込んだ。そして、受け入れの義務だけでなく「法定通貨」という呼び方まで報じた唯一の報道によれば、議会は2025年に、その言葉を法律から消した。どの報道も争っていないのは、残高そのものである。IMF自身の条件にもとづいて公開されたウォレットのアドレスは、誰でも確かめられる。ビットコインの台帳は、融資の契約がどうであれ、送金をそのまま記録する。エルサルバドルが2021年の法律で解決しようとした、支払いに使う通貨か、持っておく資産か、という設計の上での食い違いは、3年たち、法律を一度改めたいまも、決着していない。準備高の額そのものは誰も疑っていないが、それをめぐる争いは続いている。




