
2010年5月24日、InfoWorldはNeil McAllisterの特集『Open source innovation on the cutting edge』を掲載した。新しいことをしているオープンソースのプロジェクトを7ページにわたって紹介する記事で、ビットコインは3ページ目、BespinとeyeOSのあいだに4段落を得た。その最初の段落が、作者の名前と、作者が選んだ呼び名を載せている。
電子商取引のための代替通貨はこれまで何度も試みられてきたが、ビットコインのようなものはなかった。作者のサトシ・ナカモトはこれを「cryptocurrency(暗号通貨)」と呼ぶ。公開鍵と秘密鍵の暗号を使い、完全に匿名で安全な、ピア・ツー・ピアの電子取引を可能にするからだ。
技術誌がサトシ・ナカモトの名前を読者の前に出したのは、Slashdotの投稿の7週間前のことになる。そのSlashdotの投稿を、Blockworksは2025年の回顧記事で「大手メディアがビットコインを取り上げた最初の例として広く見なされている」と書いている。
4段落が正しく伝えたこと、誤ったこと
素描の大半は正しい。取引を管理する専用のサーバーも中央の権威もなく、「銀行」の役目はピア・ツー・ピアのネットワークのノードに分散している。McAllisterは供給の仕組みを「一種のデジタルの『金本位制』」と呼び、コインはCPUの計算を差し出すことで生まれると書いた。誰にも取引を拒否されず、手数料をかすめ取る仲介者もいないと述べ、「ソフトウェアだけでなく、通貨もオープンソースなのだ」という一文で締めている。
誤りは2つある。1つ目は、CPUの計算が「グリッド・コンピューティングの計算を解くのに使われる」という記述だ。実際には、ビットコインのノードはブロックヘッダーのハッシュを計算してプルーフ・オブ・ワークを探しており、探索が成功して生まれるのはビットコイン自身の取引を収めた新しいブロックで、誰かの問題の答えではない。2つ目は、取引が「完全に匿名」だという記述だ。6週間後、bitcoin.orgのトップページについてマルッティ・マルミに送ったメールで、サトシは「自動的に匿名になるような印象を与えてはいけない」と書いている。メールの話題はトップページで、InfoWorldを指す言葉はない。同じシステムを、雑誌はそうでないものとして書き、作者は注意しなければそうはならないものとして書いた。
5月の3日間
InfoWorldの記事が何をもたらしたかは、SourceForgeにあるビットコインのダウンロード数が素直に示している。記事の前の2週間、ソフトウェアのダウンロードは1日1〜30件だった。5月24日は32件、25日は86件で、この日が5月でいちばん多い。26日は40件で、27日には16件に戻っている。4月には95件と117件の日があったが、その理由は記録からは分からない。5月の合計は558件で、4月の696件を下回った。
7週間後のSlashdotの記事は、掲載日に755件、翌日に4,253件のダウンロードを呼んだ。7月は14,094件で終わった。
保存されたInfoWorldのページには、6件の読者コメントのうち5月24日と25日の3件が表示されている。3件ともオープンソース全般について論じており、ビットコインに触れたものはない。
記事がもう一度現れた場所
本アーカイブが収録している記録の中で、サトシがこの記事に触れたのは一度だけだ。7月20日、ウィキペディアのビットコインの記事が削除の候補になっていたとき、サトシはフォーラムの参加者に、Googleでビットコインを検索して「InfoWorldやSlashdotの記事に加えて、他の大きな参照先」を探してほしいと頼んだ。
私はこの一文を、InfoWorldの記事がようやく役目を果たした瞬間として読む。5月には、SourceForgeに3日だけのにぎわいをもたらし、それで終わった。2か月後、ビットコインに必要になったのは、フォーラムの外の誰かがこれについて書いたという証拠だった。そのときサトシは、この記事をその2つのうちの1つに数えた。読者が3日で去った記事でも、書かれた対象が実在した証拠にはなる。


