ハル・フィニーが、「BlackNet」のような仕組みの危険(私はそれを利点と呼ぶ)について書いている。BlackNetは、去年の秋に私が描いた、仮想の、しかし避けられない存在だ。こうした危険と利点は、1988年ごろから私にははっきり見えていて、私が唱える一連の考え「クリプト・アナーキー」への関心の、いちばんの動機になっている。
(このメーリングリストでは、あまりこの話にこだわらない。一つには、過去にもう書いたし、「暗号無政府主義者宣言」や、soda.berkeley.eduのアーカイブにあるほかの長広舌でも書いたからだ。もう一つは、サイファーパンクのメーリングリストがいくらか非政治的だからだ。非政治的というのは、ここにはリバタリアンも、アナルコ・サンディカリストも、アナルコ・キャピタリストも、ネオペイガンも、キリスト教原理主義者も、ことによると転向していない共産主義者も数人いて、特定の信条を唱えることは暗黙の合意で控えられている、という意味だ。)
とはいえ、ハルがいくつかの論点を持ち出し、データ・ヘイブン、匿名の情報市場、スパイ行為、そのほかの「違法な」市場という一般的な論点も持ち上がっているので、意見を述べておく。それに、この数日、メーリングリストの流量がひどく少ない。私のメールの配送が遅くなっているのか、オリンピックのせいか(トーニャは金メダリストの表彰台に上げて、首に金メダルを掛け、それから縄を掛けて、台を蹴り倒してやればいい)、それとも前の熱い話題が出尽くして自然に疲れたのか。
まず、法的なお断りを一つ。BlackNetの文章を書いたのが私であることは、隠さずに認める。証拠は明らかだ。だが、私はそれをサイファーパンクにも、ほかのどのメーリングリストにも投稿していないし、Usenetになどもちろん投稿していない。そうではなく、パロアルトでのナノテクノロジーの話し合いの前の晩に、一気に書き上げたのだ。来るべき未来と、新しい技術を「封じ込める」ことがどれほど難しくなるかの具体例としてだ(ハルもこの点に触れている)。この文章を、匿名リメーラーを通して何人かの知人に送り、その点をもっと手に取れる形で示そうとした。紙にも刷って、ナノテクの集まりで配った。去年の9月ごろのことだ。
誰かが、これを(リメーラーを通して)サイファーパンクのメーリングリストに投稿すると決めた。ケヴィン・ケリーとジョン・マーコフによれば、ほかにもたくさんのメーリングリストや掲示板で見かけたという。そしてもちろん、デトワイラーが最近これを何十ものニュースグループに投稿した(ただし取り消され、たいていの場所には「こだま」しか残っていない。何人かがコメントを付けてほかのサイトに転送したので、それは取り消しのメッセージの影響を受けなかった)。
私の法的な守りであり、ここでの要点は、私がBlackNetの文章を投稿していないこと、それが実際のスパイ組織やデータ・ヘイブンとして存在しないこと、そして私の意図が修辞的なもので、(私が名目上住んでいる国の憲法の)修正第1条で明らかに守られていることだ。
では、ハル・フィニーの論点に移ろう。
ハル・フィニーの投稿(1994年2月20日17:26 UTC)先週、デトワイラーが手当たり次第に投稿してまわって以来、ティムのBlacknetの話には大きな反応が集まっている。よくできた文章だと思うが、十分に強調されていないと思う点が一つある。
BlackNetの投稿(1993年8月19日04:35 UTC)BlackNetは現在、情報の在庫を積み増しているところです。次の分野の情報に関心がありますが、ほかにもおいしい話があればいつでも歓迎します。「価値があると思ったら、まずこちらに持ちかけてください」。
- 企業秘密、工程、製法(とくに半導体)
- ナノテクノロジーと関連技術(とくにマークルのスリーブ軸受)
…
ハル・フィニー目立って抜けているのは、ついでに触れられているだけの軍事の情報だ。
そうだ。私が思い描く未来では、軍事の情報はずっと「代替のきく」ものになる。ウォーカー一家のように、もちろんすでにそうなっているが、コンピューターを介した市場と安全な暗号によって、はるかに効率よく、流動的になる。買い手は欲しいものと値段を広告できる。売り手も同じだ。もちろん、おとりや偽情報といったものが前面に出てくる。
ささいな例を挙げよう。誰かがにぎやかな港を見下ろす部屋に陣取り、誰にも知られずに船の動きを見張る。それをまとめて、よその国に月3000ドルで売る。わずかだが暮らしには足りる額だ。(これが簡単にできるということは、ほかの者もこの市場に入ってくるということだ。値段はおそらく下がる。最終的な値段を予想するのは難しい。それが自由市場のよさだ。)
ハル・フィニー職場の友人によれば、史上もっとも秘密にされた計画の一つであるはずのマンハッタン計画で、ソ連は少なくとも
そう、ハルの指摘は正しい。サイバーパンクの一部ではひどく嫌われている(彼を叩くのはとてもしゃれているらしい)ウィリアム・ギブスンは、何年か前に『カウント・ゼロ』でこれを先取りしていた。ある会社の科学者たちが、ニューメキシコの台地の上に隔離されている話だ。超軽量飛行機で台地から救い出される、あるいは逃げ出す場面を覚えているだろうか。
BlackNetについて考えるきっかけになったのは(1987年の終わりに、私はこの能力をBlackNetと名付けた)、その年、いまは亡きフィル・セイリンと、彼のまだ資金のついていない会社「AMIX」、アメリカン・インフォメーション・エクスチェンジについて話し合ったことだった。私はあえて反対の立場に立ち、彼が主な顧客に考えていたアメリカの企業が、なぜそうした仕組みを避けると思うのかを説明した。私の考えは次のとおりだ。
- 企業は、従業員が会社の口座を持つことを許さないだろう。会社の情報があまりに簡単に漏れるようになるからだ
(例:「n型ウエハーのイオン注入で電荷がたまる問題の解き方を知っている人に、10万ドル払います」。多くの企業がこれを解くのに何百万ドルも使い、解けなかった企業もある。こうした簡単に答えられる問題の「市場」ができれば、半導体業界に革命が起きるだろう。だがそれは、最初に問題を解いた企業が得た競争上の優位も壊してしまう。もっと前の例では、メモリーチップを悩ませたアルファ粒子の問題がある。私は1977年にIntelでその問題と解決策を突き止めた。するとIntelは翌年いっぱい、それを固く秘密にし、競合他社はその1年のあいだずっとソフトエラーの問題にあえいでいた。いろいろな理由から、ようやく発表を許されたとき、私が論文を発表し終わる前に、競合他社は電話に駆け寄った! その前の1年間、あるいはその後でも、私の「専門知識」がどれほどの値で売れたか、想像してみてほしい。もちろんIntelは、みなさんの多くがよく知る情報戦と防諜のさまざまな手口(カナリアの罠、バリウム、印を付けた情報)で、誰が何を売っているかを突き止められただろう。それでも要点ははっきりしている。AMIXのような情報市場の仕組みは「デジタルな副業」を意味し、企業がやすやすと我慢する仕組みではない。
情報市場が広まれば、AMIXのような(匿名性のない)「まっとうな」ものであっても、多くの企業は、そうした市場に参加しないことを雇用を続ける条件にするだろう。(その詳しいことと法的な問題は、あとの議論に回す。)
ハル・フィニー企業の秘密や製造の技術を秘密にしておくのは、まだいい。だが政府の立場から見れば、Blacknetの世界は軍事機密を守るうえで、まったくの破局になりうる。政府は社会の資源の大きな部分を使っているのに、その職は給料が高くない傾向がある。民間で同じくらいの責任を負う仕事と比べれば、なおさらだ。秘密を売って金にしたいという誘惑は、ほとんど誰にでもあるはずだ。だがその誘惑は、実際の困難の大きさと釣り合っている。相手と接触し、受け渡しを手配し、おとり捜査に引っかかる危険がある。
そう。だから私はいつも、BlackNetの広告の決まった例として「B-2ステルス爆撃機の設計図、売ります」を使っていた。ノースロップでは何百人もが、さまざまな段階のB-2の機密に触れられた。彼らにとっての「問題」は、軍の情報機関(国防情報局、海軍情報局、CIA、NDAなど)が彼らを見張り(彼らもそれを知っていた)、地元のバーや仕事帰りのたまり場を監視していたことだ。詳しいことは『ファルコン・アンド・スノーマン』を読むか、映画を借りて見てほしい。
匿名の市場は、この方程式を根こそぎ変える!
(ついでに言えば、スパイ行為のほかの多くの「手わざ」も、同じように永遠に変わる。おそらく、もう変わっている。道ばたのコーラの缶に残すメッセージ、マイクロフィルムやマイクロドットや暗号文を渡すためにスパイが好んだ、いわゆる「デッドドロップ」はなくなるだろう。私が「デジタル・デッドドロップ」と呼ぶものは、すでにほぼ追跡できない、制限のない通信を可能にしている。結局のところ、リメーラーを使ってサンクトペテルブルクに届けられるなら……。あるいは、画像の最下位ビットにメッセージのビットを埋め込み、それをUsenetに載せて世界中に配れるなら……。(音声と画像のファイルの最下位ビットを使うことは、1988年にsci.cryptへの最初のメッセージで書いた。)スパイにとって、世界はもう変わっている。逃亡中のマフィアは、CompuServeで妻と連絡を取っている……連邦捜査官は、こうした絶えず変わる仕組みを盗聴できない……。いまのClipper、Capstone、Tessera、Digital Telephonyの計画の、ありそうな動機だ。)
ハル・フィニーBlacknetは、その危険の大半を取り除きうる。ほぼ完全な匿名性とデジタルマネーがあれば、機密情報に触れられる者なら誰でも、ちょっとした副収入を得られる。危ない対面の接触は要らない。その金は、足がつく心配をせずに、暮らしを少し楽にするぜいたくに使える。
そのとおり! それこそが全体のよさだ。いわば「機密の案内広告」。「もう秘密はない」。少なくとも、自分で守らない秘密はもうない! (微妙な点だが、クリプト・アナーキーは「秘密のない」社会を意味しない。個人が自分の秘密を自分で守らなければならず、政府や企業が守ってくれると当てにできない社会を意味する。それはまた、部隊の移動やステルス機の生産計画、ウエハーの注入のこつのような「公然の秘密」が、長くは秘密のままでいられないことも意味する。)
ハル・フィニーそうした誘惑に屈する者は、どれくらいいるだろう。人は身元の審査を受け、それに通る者はおおむね正直なのだろう。だが人間であり、金は強い動機になる。とくに、自分が売らなくても誰かが売ると考えれば、誘惑はいっそう強くなる。
そう。どれも正しい。
ハル・フィニー対抗策はありうる。頻繁なうそ発見器の検査(『スノウ・クラッシュ』のように)、文書に「指紋」を付けて一人ひとりが少しずつ違う写しを持つようにし、おとり捜査で犯人を特定すること、ことによると本物の買い取りの申し出を偽物で埋め尽くすこと(事実上のサービス妨害攻撃だ)。だが、どれも本当に問題を解決できそうにはない。
エクストロピアンのメーリングリストで(ちなみに、私はもうそこにはいない。関係のない理由でだ)、この話を何度も繰り返した。とくに、たいていの人がもっと不穏だと考えるBlackNet型のサービスの使い道、殺しと恐喝の流動的な市場についてだ。「流動化」は、しゃれのつもりだ。「殺し」の買い手と売り手は匿名で連絡を取り合い、「信用ある預託サービス」にお金(デジキャッシュ)を預け(「エースの匿名預託――殺るのはあなた、払うのは私たち」)、こうした殺しを止めるいつもの方法は役に立たなくなる。
(マフィアが止められることはめったにない。自前の殺し屋を使い、たいていはその一件のためだけに遠くの町から呼び寄せるからだ。そして評判がすべてだ。素人がたいてい捕まるのは、殺し屋になりそうな相手とバーなどで「聞いてまわって」連絡を取り……誰かが警察に通報し、FBIがおとり捜査で捕まえるからだ。匿名の市場、デジタルマネー、預託サービス、評判のサービスは、どれもこの方程式を劇的に変える。殺しが実行されれば、お金が移る。実行されなければ、お金は移らない。いずれにせよ、殺しを買った側はかなり安全だ。買った側が巻き込まれることはまだありうるが、おとり捜査を仕掛けるといういつものやり方とは別の手段によってだ。)
ハル・フィニー政府を本当に怖がらせているのは、おそらくこの問題だ。バーロウがWiredの記事で書いているように、政府にいる彼の友人たちを自由な暗号に反対させた問題でもある(「私の知っていることを知れば、きみも反対するだろう」)。とくにNSAは、
そう、私が1987年から88年にこういうことをすべて考えつけたのなら、ほかの多くの者にもできる。1988年のCryptoの会議で、デビッド・チャウムがこうした使い道を考えたうえで、デジキャッシュの筋書きの中でわざと避けて通っていることは、私にははっきりわかった。私が、それほど恐ろしくない使い道をいくつか話すと、彼はただ眉を上げてうなずいた。
…
ハル・フィニー自分の秘密を守ることに熱心に見えることがある。自分たちの人間が寝返りやすくなる技術なら何であれ、命取りの脅威とみなされ、あらゆる手段で戦う相手になるだろう。軍の情報機関のほかの組織も、同じように感じるはずだ。
こうした脅威や、ほかの脅威に直面している世界の政府にとって、それらが脅かすのは政府がこれまでどおり仕事を続けるやり方だ(「政府がこれまでどおり存在し続けること」とは言っていない点に注意してほしい)。その政府にとって、人々の手に強い暗号があることは、たしかに命取りの脅威だ。
政府は「受けの悪い」使い道を挙げるだろう。児童ポルノのネットワーク、スパイ行為、企業秘密の売却(とくに「外国人」への)、著作物の海賊版、盗んだ情報の「デジタルな故買屋」、殺しの流動的な市場、などなど。政府が口にしないのは、西洋文明の基本的な原則だ。一部の人が技術を悪用するからといって、それはほかの人に禁じる理由にはならない、という原則だ。
一部の人がビデオカメラを悪用して裸の子どもを撮るからといって、カメラやビデオカメラやビデオデッキを禁じる理由にはならない。一部の者が言論の自由を悪用するからといって、言論の自由を禁じる理由にはならない。そして、一部の者が(政府の目から見て)暗号を悪用するからといって、それは暗号を禁じる十分な理由にはならない。
いずれにせよ、もう遅い。もう、ほとんど後戻りはできない。国境は、情報ハイウェイの減速帯にすぎない。
この数年、私の署名に書いてきたことが、やって来ようとしている。
—Tim May
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Timothy C. May | Crypto Anarchy: encryption, digital money,
tcmay@netcom.com | anonymous networks, digital pseudonyms, zero
408-688-5409 | knowledge, reputations, information markets,
W.A.S.T.E.: Aptos, CA | black markets, collapse of governments.
Higher Power: 2^859433 | Public Key: PGP and MailSafe available.
"National borders are just speed bumps on the information superhighway." 