ビットコイン・インスティテュート

な​ぜリメーラーなのか……

ティムが、リストでリメーラーに関心を示した人は多くないと書いていた。それで思ったんだけど、この暗号の技術がなぜ大事なのか、みんなが同じ像を持っているわけではないのかもしれない。

この技術の可能性をどうやって知ったのか、思い出そうとしている。数年前に『True Names』を読んだのは覚えている。ヴィンジは、ネットの住人たちに匿名でメールをやり取りさせていた。主人公はBBSから大量のメッセージをまとめてダウンロードし、どれが自分宛てかを確かめるために全部を復号しようとした。なるほど、これなら自分がどのメッセージを受け取っているのかを隠せる、と思った。そのあとヴィンジは、「もっと手の込んだ技術を使えば、メッセージの送り手も隠せる」といったことを書いていた。待てよ、と思った。それはうまくいかない。回線を盗聴されたら、どのメッセージを送っているのか、そっくり知られてしまう。残念だ。ヴィンジのアイデアは気が利いているけれど、穴がある。

チャウムの暗号の仕事を知ったのは、去年になってからなんだ。Extropiansのメーリングリストで誰かがPGPに触れていて、私は前から暗号に軽い興味があったから、ダウンロードして少し触ってみた。すばらしいと思ったし、すっかりのめり込んだ。

それで暗号全般に興味が湧いて、図書館で調べはじめた。チャウムの仕事を見つけたときは、本当に度肝を抜かれたんだ。最初に見つけた論文は、たしか、何が可能になるかを幅広く見渡したCACMの論文だったと思う。それからチャウムのほかの論文を探しはじめた。そこには、ヴィンジの世界を動かすのに必要な技術がすべてそろっていた。ヴィンジは、どうやら私よりずっと前からそれを知っていたらしい。

私にはそれが明らかなことに思えた。プライバシーの喪失、じわじわ進むコンピューター化、巨大なデータベース、いっそうの中央集権化という問題に向き合っているときに、チャウムはまったく違う方向を示している。力を、政府や企業ではなく個人の手に置く方向だ。コンピューターは、人を支配する道具ではなく、人を解放し、守る道具として使える。人々が信用調査機関や大企業や政府のなすがままになりがちな今の世界とは違って、チャウムのやり方は、個人と組織のあいだで力の釣り合いを取る。どちらも、相手による詐欺や不当な扱いから守られるんだ。

当然ながら、力がこれほど偏って配分されている今の社会では、こうした考えは大きな組織にとって脅威になる。力の釣り合いを取れば、組織は差し引きで力を失うことになる。だから、チャウムの考えを取り上げて旗を振ってくれる機関はない。草の根の活動になるしかないんだ。まず個人が、自分たちがどれほどの力を持てるのかを知り、それから、それを求めていく活動に。

では、リメーラーはどこに収まるのか。リメーラーは、この考えの家の「1階」にあたる。本当の身元を明かさずに、メッセージを内密にやり取りできる力だ。これがあれば、今のように政府や企業のデータベースに一挙手一投足を追われることなく、取引をし、資格を示し、話をまとめられる。内密に、匿名でやり取りする力を確かなものにして初めて、自分の人生についての情報を一人一人が本当に所有し、管理できる世界へ、次の一歩を踏み出せる。

チャウムのACMの論文には、挑発的に『Security Without Identification - Transaction Systems to Make Big Brother Obsolete』(身元を明かさない安全:ビッグ・ブラザーを時代遅れにする取引システム)という題が付いている。ここで私たちがしている仕事は、大きく言えば、ビッグ・ブラザーを時代遅れにするというこの目標に捧げられている。大事な仕事だ。うまくいけば、振り返ったときに、これが私たちのしてきた中でいちばん大事な仕事だったと分かるかもしれない。

ハル・フィニー74076.1041@compuserve.com