
2014年3月7日、日本政府は、ビットコインは通貨に当たらないとする答弁書を閣議決定し、国会に示した。通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律にも、日本銀行法にも、民法にも、外国為替及び外国貿易法にも該当しないという答弁だった。その答弁から3年と25日後、同じ政府が、国内で法定通貨との交換を扱う業者すべてに金融庁への登録を義務付けた。登録しなければ、営業はできない。
内閣、ビットコインは通貨ではないと答弁
マウントゴックスが東京地方裁判所に民事再生を申し立ててから、わずか1週間後、内閣は第186回国会の質問主意書第28号に対する答弁書を閣議決定した。答弁はこう記す。
(内閣の答弁書、2014年3月7日)ビットコインは通貨に該当しない…ビットコイン自体の取引は、銀行法に規定する銀行業として行う行為には該当しない
同じ答弁は、通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律、日本銀行法、民法、外国為替及び外国貿易法という四つの法律の名を挙げ、ビットコインはそのどれにも当たらないとした。
マウントゴックス、答弁が扱わなかった破綻
当時世界最大のビットコイン取引所だったマウントゴックスが、東京地方裁判所に民事再生手続き開始を申し立てたのは2014年2月28日のことだ。のちに管財人に選ばれた弁護士は、申し立てに至った経緯を、こう記している。
小林信明(裁判所への管財人の報告書、2014年)破産者は…平成26年2月28日、東京地方裁判所に対し、民事再生手続開始申立てを行った…BTCの基礎ソフトのシステムバグを悪用した不正アクセスによって破産者の管理するBTCが不正に引き出された可能性があること、破産者の預金も原因は不明であるが減少していたことなどの結果、民事再生手続開始申立時において支払不能、債務超過の状態にあること
民事再生の手続きは続かなかった。東京地方裁判所は2014年4月16日に申立てを棄却し、同日付けで保全管理命令を発令した。申立ての棄却から破産手続の開始までを、報告書はこう記す。
小林信明(裁判所への管財人の報告書、2014年)東京地方裁判所は、平成26年4月16日、民事再生手続開始申立てを棄却し、同日、保全管理命令を発令し…東京地方裁判所は、平成26年4月24日、破産者について、破産手続開始決定をなし、弁護士小林信明を破産管財人に選任した。
管財人が裁判所へ提出した報告書は、マウントゴックスの手元にどれだけ残っていたかを数字で示した。保全管理命令の効力が生じた時点で、同社がまだ管理していたアドレスには202,106.000721 BTCがあった。管財人がこれを自分の管理するアドレスへ移すと、手数料を差し引いて202,105.837821 BTCになった。
小林信明(裁判所への管財人の報告書、2014年7月23日)当職は、保全管理命令発令後直ちに、破産者の保有する202,106.000721BTCが管理されているアドレスの秘密鍵を確保したうえで…当職が管理するアドレスへの移動を行った(手数料控除後残高202,105.837821BTC)。また、現在も、破産者のデータ上残存するBTCの有無を調査している。
報告書でも答えが出ていない、もっと大きな問題がある。2014年7月23日に報告書を出した時点では、マウントゴックスのほかのBTCがどうやって消えたのかの調査は、まだ続いていて、答えは出ていなかった。
閣議答弁から法律へ
2014年の答弁で、法律の空白があらわになっていた。国会はそれを埋めた。2016年5月25日、国会は、資金決済に関する法律を改正して仮想通貨交換業者の登録制度を設ける法律を可決した。同法は同年6月3日、平成28年法律第62号として公布された。
2017年4月1日、登録が義務になる
改正法は2017年4月1日に施行された。この日から、国内で仮想通貨を法定通貨と交換する業者は、金融庁への登録を受けなければならなくなった。受けなければ、営業はできない。金融庁の案内ページは、当時の制度をこう記している。そこで使っている「暗号資産」という呼び方は、法律が2019年に採ったもので、当時の用語ではない。
(金融庁の案内ページ)平成29年4月1日から、「暗号資産」に関する新しい制度が開始され、国内で暗号資産と法定通貨との交換サービスを行うには、暗号資産交換業の登録が必要となりました。
| 2017年4月1日より前 | 2017年4月1日より後 | |
|---|---|---|
| 交換業を営むこと | 仮想通貨のための免許はなく、内閣は銀行法の対象にならないとしていた | 法定通貨との交換を扱う業者すべてに金融庁への登録が必要 |
| 法律上の根拠 | 仮想通貨に特化した規定なし | 改正資金決済法(平成28年法律第62号) |
改正法は、2014年の内閣答弁が示した「ビットコインは通貨ではない」という判断には触れていない。改正法が規制したのは、2014年の答弁では、そもそも問われていなかったことである。ビットコインが何であるかではなく、ビットコインを交換する商売を誰が営んでよいか、である。
2017年以降、規制は一方向にしか動いていない
登録制度の施行から1年も経たない2018年1月、日本の交換業者の一つであるコインチェックが、約5億2300万NEM(約580億円相当)をハッキングで失い、金融庁はその日のうちに報告命令を出した。その後に続いたのは後退ではない。国会は2019年に「仮想通貨」の呼称を「暗号資産」へ改め、2022年にはステーブルコインのための「電子決済手段」という免許区分を新設した。2025年にはJPYCが、円建てステーブルコインの発行者として国内で初めて登録され、同年10月に発行を開始した。2026年4月10日には、内閣が暗号資産規制を資金決済法からより厳格な金融商品取引法へ移す法案を閣議決定した。同じ10年のあいだに、ほかの国々は暗号資産の規制を緩めたり、禁じたり、また認めたりと揺れ動いてきた。その中で日本の規制は、2017年4月1日以来、緩める方向には動かず、登録を求める範囲を広げる方向にだけ動いてきた。
ビットコインにとっての意義
ビットコインそのものは、内閣の答弁でも、その後の法律でも、規制の対象になっていない。どちらも、規制したのはビットコインを交換する業者であって、ビットコインを生み出すプロトコルではない。マウントゴックスの破綻があらわにしたのも、同じ区別である。ネットワークには、政府が免許を与えられる運営者がいない。取引所には運営者がいて、その運営者が破綻した。日本の2017年の登録制度は、取引所をめぐる法の空白を埋めたが、ネットワークには手が届かない。


