貨幣回帰と物々交換経済からの貨幣の出現 回帰定理の目的は、貨幣の見かけ上のパラドックスを説明することにあった。すなわち、貨幣が交換手段として機能するから価値を持つのだとすれば、貨幣はどうやって交換手段としての価値を持つのか? メンガーとミーゼスは、このパラドックスの言い回しに欠けていた本質的な時間要素を説明することで、この見かけ上の循環論法を打ち破った。
ロスバードが『人間・経済・国家』(270頁)で説明しているように、 「……X日の終わりにおける貨幣価格は、X日の始まりに存在していた貨幣と財の限界効用によって決定される。しかし、貨幣の限界効用は、上述の通り、既に存在する貨幣価格の配列に基づいている。貨幣は、既存の貨幣価格があるがゆえに需要され、有用と見なされる。したがって、X日における財の価格は、X日における財の限界効用と、X日における貨幣の限界効用によって決定され、後者はX-1日の財の価格に依存する。 したがって、貨幣価格の経済分析は循環論法ではない。今日の価格が今日の貨幣の限界効用に依存するならば、後者は昨日の貨幣価格に依存する。」(強調はすべて原文)
ロスバードはさらに、貨幣が物々交換経済から出現するには、既存の商品価値を持っていなければならないと説明している。この商品価値は、貨幣になりうるものに対する、直接消費(すなわち装飾用途)のための物々交換の需要から生じる。この価値が、交換媒体としての貨幣の価値を将来見積もるときの種になる。こうして、市場から貨幣が自然に出現することが完全に説明される。
貨幣経済 しかし、経済が一旦貨幣化され、財やサービスの価格比率の記憶が確立されると、貨幣はその直接的な商品価値を失っても、なお貨幣(間接交換の媒体)として使われうる。ロスバードは次のように説明している(275頁): 「一方、この分析から、既存の貨幣がその直接的用途を失った場合に貨幣として使えなくなるということにはならない。したがって、金が貨幣として確立された後に、装飾品や工業用途としての価値を突然失ったとしても、必ずしも貨幣としての性格を失うわけではない。交換媒体が貨幣として確立されると、 貨幣価格は引き続き設定される。X日に金がその直接的用途を失ったとしても、X-1日に確立された既存の貨幣価格が存在し、これらの価格がX日における金の限界効用の基礎を形成する。同様に、X日に決定された貨幣価格がX+1日における貨幣の限界効用の基礎を形成する。X日以降、金はその交換価値のみで需要され、直接的用途のためにはまったく需要されないこともあり得る。したがって、貨幣が直接的用途を持つ商品として 起源を持つことは絶対に必要であるが、貨幣が確立された後にも直接的用途が続くことは絶対に必要ではない。」
これで不換紙幣の歴史が説明できる。不換紙幣はもともと、貨幣以前の物々交換経済から発展した商品貨幣(銀)の重さを表す単なる名前として始まった。のちに国家の介入で直接的な商品価値との結びつきを失ったにもかかわらず、紙幣は 以前の貨幣価格の記憶があるために貨幣としての地位を保った。この要因はとても強く、たとえば金とUSDの関係はある程度逆転している。金はもう一般的な交換媒体として流通していない。価格はUSDで付けられ、金では付けられない。金で取引したい個人の大半は、USD/金の価格比率の知識をもとにそうしている。(「ねえ、その100ドルのソファを金で買わせてくれない?」「いいよ、USD/金は1000ドル/オンスだ。金1/10オンスをくれ。」)法定通貨法、国家の課税、そして金融規制の環境全体がUSD価格の慣性を保ち、不換紙幣のインフレによる破壊的な性質にもかかわらず、金の貨幣へ直接戻ることを難しくしている。
ビットコイン経済の出現 ビットコイン経済の最初のビジネスは取引所(NewLibertyStandard、BitcoinMarket、BitcoinExchange…)だった。これは偶然ではなく、上の分析から自然に導かれることだ。ビットコインが、間接交換以外の用途での商品価値なしに交換媒体として機能するには、貨幣価格を翻訳した知識が要る。市場の取引所がこの隙間を埋め、ビットコインのユーザーにこの知識を与える。だから、ビットコインは今、PayPalドル、Pecunix、ユーロの貨幣の仲介として機能しうる。では、なぜUSDではなくビットコインに需要があるのか? これは、匿名性、分散型の決済システム、暗号学的な信頼、あらかじめ定められた成長率、組み込みのデフレ、分割のしやすさ、安いトランザクション手数料など、ビットコインのシステムに固有の特性から生じる主観的な評価だ。
肝心な点は、貨幣(USD)とビットコインの間で交換ができるようになれば、財の提供者はビットコインを交換媒体の候補として評価する手段を得るということだ。貨幣回帰は満たされる。十分に遡れば伝統的な商品貨幣にたどり着くからだ:ビットコイン → USD → 貨幣化された金銀 [貨幣経済の開始] → [物々交換経済の終了] 商品としての金銀。
もちろん、大規模な崩壊が起きて、すべての価格比率の知識が消し去られたら、ビットコインがそのまま貨幣として出現することはおそらくないだろう(ビットコインが交換以外の価値をほとんど持たないと仮定した場合)。直接的な物々交換の価値がゼロの不換紙幣も、まず出現しないだろう。物々交換で広く認められた直接的な価値を持つ、金や銀などの商品が最初に出現する可能性が高い。その後、経済は金銀の価格比率で貨幣化されるだろう。そして、交換に向いた固有の特性で評価されるビットコインが、取引の中で広まるかもしれない。はじめのうち、価値を生み出す人々は本物の貨幣で価格比率を作り続ける(金オンス/BTC比率)だろうが、時間がたつにつれてビットコインの価格(BTC)が出現しうる(例としてvekja.netを参照)。我々は今、この初期の段階にいる。
したがって、BTCとUSD/ユーロなどの交換が行われるかぎり、既存の価格比率の知識をビットコイン経済で使える。時間がたってビットコインの市場性が高まるにつれ、これらの法定通貨⇔BTCの価格比率が、BTCで直接付ける価格比率の種になるだろう。こうしてビットコイン経済が出現する。ミーゼスの回帰定理は満たされる。
XC
編集:物々交換経済からのビットコインの直接的な貨幣出現の可能性について明確化。