
2025年4月7日、弁護士ジェームズ・A・マーフィー (通称「MetaLawMan」) が、コロンビア特別区連邦地裁に米国土安全保障省 (DHS) を被告とする情報公開法 (FOIA) 訴訟を提起した。求めているのは、2019年にDHS特別捜査官ラナ・サウドが公の場で語った発言に関連する内部記録の開示である。その発言とは、DHSの捜査官の一人がサトシ・ナカモト本人だと考えた相手への面談のためカリフォルニアへ渡航し、現地でさらに3名の関係者を見つけて計4名と面談した、というものだった。
2019年OffshoreAlert会議でのサウド発言
2019年4月29日、「OffshoreAlert Conference on Financial Intelligence & Investigations」の壇上で、ラナ・サウド特別捜査官は「DHSはサトシ・ナカモトの正体を把握している」と聴衆に語った。彼女によれば、捜査官の一人が、サトシ・ナカモト本人だと考えた相手に会うためカリフォルニアへ飛ぶことを希望した。現地に着くと「彼は一人ではなかった」。ビットコイン創設に関わった他の3名も見つかり、DHS職員はビットコインの仕組みと開発の動機について、この4名全員と話をしたという。サウドは4名の身元については明らかにしておらず、その後現在に至るまで、DHSは当該面談が実際に行われたことを裏付ける記録を公表していない。
FOIA請求とDHSの回答
マーフィーは2025年2月12日、サウドの2019年発言に関連するDHS内部メール、出張記録、面談記録、反訳、録音等の開示を求めるFOIA請求を提出した。訴状の添付には、翌日2月13日付のDHSの最終回答書、ICEからのメール、2月19日のマーフィーの返信があり、記録は開示されなかった。
訴状
記録が開示されないまま、マーフィーは2025年4月7日にコロンビア特別区連邦地裁へ提訴した。代理人はシェア・ジャフィ法律事務所 (Schaerr Jaffe LLP) であり、同事務所所属でFOIAを専門とするブライアン・フィールド弁護士が共同代理人を務める。担当はレジー・B・ウォルトン判事である。DHSは2025年5月30日に答弁書を出し、その後は当事者がそろって状況報告を出し、裁判所が状況協議を開いてきた。2026年10月9日の時点でも事件は続いており、記録についての判断は出ていない。DHSが記録の開示義務を負うか、それとも国家安全保障や個人情報保護を理由とする例外規定で開示を拒めるかが争点となる。
サトシ特定の系譜上の位置づけ
本件は2024年以降に相次いだジャーナリズム / ドキュメンタリー系のサトシ特定とは性質が異なる。2024年HBOドキュメンタリーによるピーター・トッド特定、2026年ニューヨーク・タイムズのキャリールー調査によるアダム・バック特定、2026年映画『Finding Satoshi』のフィニー=サッサマン仮説は、いずれも文体計量や状況証拠を根拠に候補を名指す形であり、存命の当事者はそろって、自分は本人ではないと否定した。
一方マーフィーのFOIA訴訟は、政府機関職員自身による公の場での発言という別種の手がかりを起点とし、連邦FOIAの枠組みを使って関連内部文書の開示を強制的に求める。サウドが示唆した通りの記録がDHSに存在し、裁判所命令で開示されれば、文体計量による推論を経ずに2019年面談の具体的な事実関係が判明する可能性がある。







